メールでリレー小説2008 第一章

☆第一章 第七節 「見よ、あれが銀河の灯だ」

 時空の裂け目に投げ込まれた私はその衝撃で意識を失った。
 気がつくと、窓から銀河が見える。いったいどこまで飛ばされたのか?
 不安を覚えつつも、銀河の美しさに見入ってしまった。漆黒の闇の中で浮かび上がる銀河は、あたかも放浪する船乗りへ助けをもたらす灯台のようだ。
 私はぺたぺたという音に我にかえって後ろを振り向き、そこにいるものを見て目を疑った。
 巨大ななまこに似た何かが床を這いずり、触手を伸ばして指下をつついているではないか。
 なんじゃこりゃ。
「大宇宙なまこデス」
 背後からアームストロング船長が指摘した。
 振り返ると、どこに隠していたのか、戦闘用宇宙服を着て、むやみに手足の多い小動物を手にしている。
「大宇宙なまこノ天敵、オニヒトデナシよ、カカレ」
 船長が放り投げると、そのオニヒトデのような小動物は「大歓迎大歓迎」と叫びながら巨大なまこをむさぼり食っていく。
「船長、ァ〜ァァ〜大変です、むにむに食べてますよ!」
 オニヒトデナシは物凄い勢いで食う。食う食う。
「オニヒトデナシさま。朝夕は肌寒さを覚えますこの頃でございますが、おすこやかにお過ごしの事と存じあげます。」
 と、その足元にまとわりつくように螺旋状にのぼってくるのは串だんごむし。
「わたくし、串がちと邪魔ではありますが、新体操も得意でしてよ。」
 と、いきなりでんぐり返して体を丸める。その姿はまさに木琴のばちそのもの。思わず手に取る私の前に突如、マリリンバが色っぽく身を横たえる。
「さあ、ぽくぽく叩いちゃって。遠慮はご無用よ〜ん。」
 おそるおそる鳴らしてみると、案外いい響きっぷりである。
 すっかり気をよくしてチコチコの演奏に没頭している間に、船長は罵倒星雲系のコンニャロとアンニャロとブチカマシタルワイを手際よく袋に詰めてポンと蹴る。
 ニャンと鳴く。
 ニャンがニャンと鳴くリズムが私のチコチコと絡み合う。
 ヘコヘコ、アゴゴと化したマリンバはいい具合のビートを刻む。
 その音につられて、窓の外に広がる銀河系には巨大なサンバ・ジ・ホーダが作られた。56億7千万年に一回の銀河サンバカーニバルだ。
 弥勒菩薩を先頭に、ブラジル系宇宙人が銀河系の回りを踊り狂う。
 踊る、踊る、まだまだ踊る。踊り狂って、その熱気に銀河系が炎上し始めた。
 あまりの騒ぎに目を覚ました指下が叫んだ、
「見よ、あれが銀河の火だ」
 見ると、銀河三大祭りのひとつ「オロチョンの血祭り」が開催されようとしていた。
 広大な銀河系に放たれた宇宙牛が見える!
 炎をあげる銀河系へと牛たちを追い立てる最高にエキサイティングな祭りであるが、毎回多数のチャンバが犠牲となる非常に危険な催しなのだ。
 牛たちはステーキ肉を片手に「美味しいよ!」と愛嬌を振りまき、一方それを追い立てチャンバも走る。
「それにつけても俺たちゃ何なの?ビーフひとつにキリキリ舞いさ。」
 私のチコチコも絶好調で祭を盛り上げてる。自ら赤い布を振りながら、宇宙牛を呼び寄せようとする勇敢なチャンバもいる。
「焼肉になるまで待ってられない!何頭でも生で食い尽くしてみせるさ!」
「おおーっ!」
 踊る串だんごむし。だんごがタンゴ。
 タララッタ・タッタ・タッタ・タッタ・タッ・タッ・タン!
 なんと華麗なステップ。
「よく、もつれねーよなぁー」
 感嘆の声をあげる指下。
 すると『だんごタンゴステップ』をふみながら、弥勒菩薩が私に近づいてきた。もちろんアルカイックスマイルだ。
「僕のココロを悩ませる、ハイッ」
 え?どうやら続きを促されたらしい。
「ハイッ」
 でも、
「ハイッ」
「ハイッ」
「ハイッハイッ、ハイになりましょー!ハイブロウな廃人ステップなら私どもハイミナール星人におまかせアレ〜」
 …ゴキゲンにラリった野郎が乱入、弥勒にタップをかます。
 タララッタ・ッタ・ッタ・ッタ・タッタタン!
 すると
「呼ばれて飛び出すチャンチャリンコ」
 …どてっどてっと鈍重そうなステップで四角くでかい顔が現れる。
 指下は
「あ〜あ、またずいぶん安易な奴が来ちまったな。どうせタタミ星人とかぬかすんだろう、このスットコドッコイっ」
 と毒づく。
「ご名答ぅ。わちきはイグサ座からやってきたタタミ星人でありんす」
 とタタミ星人の挨拶が終わるかおわらないかのうちに、今度はペラッペラの薄くて少し透けてる四角いヤツが、海の芳香を漂わせながら現れた。
「我こそは、カタクチイワシ座の畳鰯星からやってきた、ひよこまめ星人でしゅよ!」
「えっ、畳鰯星人じゃないの?」
「畳鰯星から来たかりゃって、畳鰯星人と決めつけにゃいでくだしゃいね!」
「す、すみません。でもルックスも畳鰯っぽい…」
「おだまりなしゃい!ごらん、右の窓の外を。音もなく静かに遠ざかってゆく、あれが銀河系。ごらん、左の窓の外を。音もなく静かに近づいてくる、あれがひよこまめ。ごら…」
「ひよこまめ?宇宙空間に?」
「うるしゃいでしゅっ!ごらん、後ろの窓の外を…そこの人、なみゃこをかじらにゃい!わたしたちは皆さんをひよこまめにごしょうたいしにきたのでしゅからね!はい、みんなせいれーつ!ひよこまめにいらっしゃい!!」
 漆黒の空間にぽつんと浮かんでいるひよこまめは、近づくにつれてその大きさが露わになってきた。
 周辺を雲霞のように宇宙船が飛び交っているのが見える。
 流星号はその間をくぐりぬけ、ひよこまめのてっぺんに引き寄せられていった。
 流星号が100隻も同時に飲み込めるような開口部から中にはいりこみ、ドッキングの軽いショックと共に流星号のエンジン停止したのを感じた。
「ひよこまめによーこそ!!」

☆第一章 第八節 「地球をさがして〜銀河鉄道XYZ〜」
 暗黒の世界にも、もう飽きてきた。
 なんだか地球が懐かしい。置いてきた犬のペロは元気だろうか。
 そんな感傷に浸っていたら、何か細長いコンクリートの板が二つが浮かんでいるのを見つけた。
 近寄ってみると何か文字が書いてある。
 一つには地球方面 、もう一つには冥王星方面と書いてある。
 これはきっと駅だ。
 待っていたら何かくるかもしれない。私は待つ事にした。
 しばらくすれば銀河鉄道が到着するだろう。食堂車はあるだろうか、あたたかい紅茶やホットミルク。お腹も空いてきたし、あぁ早く戻りたい。みんなに会いたい。
 戻ってみたら浦島太郎みたくなっていたりして…なんてことはないよね?
 んなことになってたら、あの亀の野郎は土鍋に放り込んでトロリトロリと煮込むこと一週間、ス・ステキナ・ス・スープ、肉も魚もいるものか!
 ペロや愛馬のポロ、インコのピロと一緒に美味しくいただいてあげるわ。
 それにしても、本当に地球行きの汽車は、冥王星からやってくるのかしら?
 貴社の記者が汽車で帰社した、みたいなオチじゃないわよね。ドッテンカイメイと呼ばれたのも第九惑星と呼ばれたのも、今は昔の冥王星。
 それにしてもお腹がすいたわね。
 ちょうどその時アナウンス、「なべ〜、なべ〜、一番線に四両編成鍋列車が入線します」、がちゃこーん、蒸気機関車が鍋を沸かす最新式だわ。
 一号鍋はちゃんこ鍋、あら、出汁はモンゴル力士さんだわ、ちょっと味見をば。まぁ、いいお出汁が出ているわ。
 二号鍋は何かしら、鴨鍋ね。出汁はカモノハシさんだわ。カモノハシさんは鴨じゃないわよねえ。
 三号鍋は流星号鍋??、あの出汁には見覚えがあるかいっくスマイルは弥勒菩薩だよね。あれ、なんだか思考が飛んだ気がする。…そうだ、流星号鍋か。出汁はアームストロング船長に指下、机山。3人とも出汁に肩までつかって気持ちよさそうにしている。特に船長はご機嫌な様子だ。
 そして四号鍋は、…ペロポロピロ鍋!三びきがみっちり煮たっている。ペロもピロもポロも、みんな久しぶりに会えたと思ったら、まさか出汁になっていたなんて。
 …ふと、一瞬の静寂。
 一号鍋から四号鍋の出汁達全員が、私を見ていた。真剣な眼差しだ。
 そして一斉に叫んだ。
「さぁ、どの鍋に入る?!」
「えっ、えーー。やだよォ、あたし、みんなの前で男の人と一緒にお風呂なんか入れないっ」
 私は、自分の耳が真っ赤になるのがわかった。
「なーにブリッ子こいてるんだよ。早く入れよ。俺たちみたいに、ちゃんと出汁巻き付ければいいじゃんか」
 といいながら立ち上がった指下は、なんと巨大な出汁巻き玉子に体を包まれたまま、出し汁に浸かっていたのだ。
「えっ、で、でもでもでも…。どの鍋もいい出汁でてるしぃ。ほら鴨鍋なんかそろそろ良い頃合みたい。下仁田ネギが凄くよく合いそう。」
 と言いながらそそくさとおたまで灰汁を取り、皿に取り分けたものを指下に差し出す。
「ささ、どうぞ。」
 その押しの強さについつい指下も皿を受け取り、自分が鍋に浸かっていることも忘れ一言、
「あ〜、あったまる〜!やっぱ鍋はいいねえ。」
「ワタシニモクダサイ。」
 とのアームストロングのリクエストを合図に、ペロ、ポロ、ピロも加わって僕にも私にもの大合唱。
 私も忙しく立ち働いて、猫の手も借りたいわ。
「えー、猫の手、猫の手いかがですか」
 駅弁売りがやってきた。なんて気が利く奴なんだろう。
「馬の首は売り切れだ。猫の手いかがですか」
 ダブルのロングコートの襟を立て、帽子の下で目が光っている。
「じゃあ猫の手を貸してください」
 思わず頼んでしまったが
「お客さん、こちらも商売ですんでオアシを貰わないと差し上げられません」
 と言われ、ちょうど外れていたポロの足を引き替えに渡そうとした。
「おきゃくさん、これじゃだめだよー。オアシがないなら、帰った帰った」
「借りるだけなんだから、これでなんとか、鉄道のお客じゃないですかア」
「じゃあちょっと切符見せてください」
 ポケットをあさってみるが、もちろん何もでてこない。
「お客さん、キセルじゃないのお?、駅員さーん、キセルの客だよキセルの客」
「なんですと」
 呼ばれて飛び出た駅員さん。
「キセルとはけしからんですな。ちょっとそこまで来てもらおうかなフフフ」
「来てってどこへ?話ならここでいいじゃない」
 抵抗する私。
「いやちょっとそこまでだから。ちょっとそこまでだからねフフフ」
 駅員の意外なほどたくましい腕が私を捕まえて離さない。
「いや…アッ…」
「フフフ…」
「助けて…ペロ…」
 たちまちペロがやってきた。
 四号鍋の出汁をぽたぽたしたたらせながら、馬のポロの背にペロが乗り、その頭にはインコのピロがしがみついている。
 駅員はインコの尾羽をついと指でなでて出汁の味をみた。
「まあまあ、よく炊けてるじゃないかウフフ。それでこいつらはナニかい、ブレーメンの音楽隊かなにかかかかか」
 様子がおかしい。
 見ると駅員の尻をものすごい勢いでインコがつついている。
 駅員が振り返ると、ピロはどこかへ飛んでいき、小さい紙をくわえて戻ってきた。
「なんだ、切符あるなら始めからだしなさい」
 駅員はピロの渡した紙にパンチを入れ、私達に言った。
「かなり発車時間が過ぎてしまった。早く乗って下さい。発車します。」
 私達は慌てて列車に戻る。

「出発進行!」

 四両編成鍋列車は銀河系のかなた地球へ向かって発車した。
 私は地球へ帰れる嬉しさでいっぱいだった。
 地球まで何年かかるかもわからないのに。


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