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 石井AQ!の[ HTプロデューサーの小屋 ] 2頁目

 
AQ! 第10回
   宇宙の子供.com 出張版 
 宇宙の子供.com の公表期間が過ぎましたので、ここに再掲。

 こんにちは。プロデューサーの石井AQです。「宇宙の子供」レコーディングについて何か書けと仰せつかりました。てなもーで、ここでは、「宇宙の子供」サウンドメイキングを巡るこぼれ話…なんてことで徒然と与太与太と記させていただきます。
 専門用語の解説などは気が向くと挿入いたしますので(^^;)、よろしくおつき合い下さい。

 目黒のエピキュラス・スタジオに集いしは、勝手知ったるいつもの連中。今年も元気が良い。初日、私めが車を停めて楽器を降ろし始めるやいなや、「やぁやぁやぁ」と邪魔しに(?)現れるヒゲのオジサンはレコーディングエンジニア田中信一氏(業界コード:タナシン)です。

「AQ!さ~ん、今回は何に録る?」
「ヨンパチでもプロツーでも。信一さんがいーのでいーよー。PTHDはあったけ? DSD持ってきたとかじゃないよね」

…とこれは、メインとなる録音機、レコーダーの相談であります。最近のタナシンさんは大概のプロジェクトをプロツーで抱えてるということで、プロツーことProtools(とは、PC…といってもプロツーでは99%Macだが…をホストとするレコーディング・ハード&ソフトで、媒体としてはハードディスクに録音していく)ベースの録音と決定。

 谷山チームは前回までヨンパチ(は本名3348、フルネームで呼ぶときはサンサンヨンハチ、と何故かハチが濁らない所の、Sony製デジタルテープレコーダー。漬物石がわりにすると漬物が潰れるほどの巨体の上でテープががんがん回る)への録音であったので、これが今回の最大の変更点です。
 3348とProtoolsは、近年ではどちらも業界標準的ツールで珍しい物ではありませんが、「録音の情景」は結構変わります。例えば。ある日スタジオに来てみると、タナシンさんが待合室兼食堂であるロビーの隅っこでヘッドホンかけて何かゴソゴソやってます。隣では別件のスタッフが出前のラーメンなぞを食べてたりして。近寄ってみるとタナシンさんの作業はサウンドファイルの整理及びプリTDとでも言うべき内職。何せPCベースですから、持ち運びが効く、小回りが効く。「スタジオの中はAQ!さんが次の曲の用意やってていいからね~」なんて呑気なこと言いながら、ロビーに出張して(避難して)シゴトしてるオジサンです。ラーメンの汁が飛ぶぞ(^^;)。

 音楽に限ったこっちゃないですが、世の中、PC化が進むと「作業を何やらゴソゴソ」やっている、という形容がまことに似合う景色になりますな。私めの担当のプロデュース&プログラミング作業などは更に以前からPC化していますが、各部署で、「各自ゴソゴソ」な情景が増加しています。暗い…とか言って嫌う向きもありますが、PCって「お道具感」があって、私は結構、好きです。現在より前の、大装置による録音システムが、分業的で流れ作業的で手順において機械的な「工場」の過程であったのに対し、PCという精巧な道具が導入されることで逆に職人的な「工房」のスタイルに展開しているように思います。製靴工場にいたものが、利便編み針を得て草鞋職人に転じたような気分です。職人が一枚一枚手焼きしております…

 …と、何を演説しているか意味不明になった所で話を現場に戻して、エピキュラスに自分の機材をセッティングしましょう。私の担当のいわゆる"打込み"の根幹ソフトは(谷山チームでは)相変わらずの通称デジパフォことDigital Performer。midi、audioともに正確・安定・操作性・見た目に優れる。とくにmidiデータを死ぬまで書き倒すこのシゴトには素晴らしい相棒です。また、デジパフォは浮き沈み激しく倒産吸収合併も激しいこの世界で20年近い"最長不倒ソフト"を続けていて、太古のデータもコンバート無しにすぐ読めるという点で、「息が長い仕事」向きでもあります。「限られたモデルしか面倒見切れねーよ」というような大変に前向きな(^^;)理由で"Mac only"のアプリであり続けていて、よって今セットしている私のマシンもMac G4-QS867。

 機材の山を積んでいるとタナシンさんからジャブが飛びます。

「お、さすが、モニターはSamsungだよね~」

??? 確かに私の持ち運び用モニターディスプレイはSamsungの小さい液晶なのだが、どこが「さすが」やねん。性能に、文句なら色々あるのだが(^^;)。
 こういう現場の、機材品評の「軽口」には掟のような物がありまして、大概、「取るに足らないような物」から入ります。「宝物」にいきなり触れることは無いのね。「ツマミのゴツさはMoogに限る」とかそーゆー奴。その意味ではSamsungのモニターは好適なんだけどさ、それにしても何が「さすが」やねん。

 と見ると、タナシンさんのセットするモニターもSamsungなのであります。

「Samsungはいいよね。これが一番、ボール箱が小さいんだよ。さすがAQ!さん」
「!」

だって。本体のサイズに比べて、外装ボール箱が小さいのが素晴らしい、というのが主張なのだ(^^;)。確かに機材ローテが早くなった昨今では、こういう機材は専用ケースを作ったりせず、ボール箱のまま運搬して使う。だから無駄な余白が少ない箱の方が機能的ではあるのです。
 しかし、一々比べたのかね、オジサン。

 …などするうちに御大谷やんが現れるわけだ。谷山先生もご存じの通り、PC化の巨人である訳なのですが、先生、こういう録音の楽屋裏にはちぃとも興味がございません。谷やん、録音は言葉通り、音が録れれば良いと思っております。コンピュータなら何でも好きとゆうものではござんせんで、興味の指向性が急峻なのであります。

 コンニチに於けるサウンドファイルのコンピュータ処理っつうものの恩恵とゆーかメリットとゆーかこき使われ方の多くは、「音痴な歌の音程を直す」であるとか「リズムを補正する」であるとか、そういう修正であるとか矯正であるとか誤謬訂正に、至上の使命を見いだしているが如きなのですが、それは谷やんの辞書にはあまり載っていない用途のようなのです。
 谷山関連パートについては、歌は歌われるがまま、ピアノに至っては一回サラと弾いては間違いもなく二回目には既に飽きている、という(何か密林で拾ってきた自然児みたいだな)、天然自然の描写のような録音が行われます。大体ですね、こういう時、アーティストというのは「そこんとこ、プロツーのプラグインで直せるっしょ?」みたいなことは、なまじ、知らない方が、関心ない方が良いんです。世の中、上手く出来てます(^^;)。(概論だけ付け足しておきますと、修正とゆーのはかければかけただけ生気が失われる、という一般傾向があります。ゆえに、修正の匙加減というのはプロデュース上の微妙な判断となります)

 歌入れについて触れておきましょう。谷やんは決して身体頑健なタイプでは無いので(見りゃわかる、って(^^;))、歌の出来はコンディションに幾分か左右されます。具体的には、日によって微妙に調子の善し悪しが生じます。それゆえなるべく歌入れ日程をブロードにとるように努めます(絶対時間が多大にかかる、という訳ではありません … 歌が下手、のような方の場合には時間がかかります。そうでなくて、日にちを多くとる、ということです。体調のビッグウェーブが来るのを待つサーファーの心境ですな)。今回も、録音初日からTDのその日まで、歌いました。

 今回は根性入ってましたよ。これでもか、と録りました。いつにもまして、「宇宙の子供」の歌は、強い意志の感じられる、従前からのつややかな美しさに太さや強さの加わった仕上がりになっていると思います。

 しかしですね、初日からTDまで歌入れが可能な環境作りというのは、録音仕事をしたことがある人ならわかるでしょうが、結構、た~いへんなんです。初日から歌が入れられるように、なんて作業の辻褄が合いません。慣れたチームだからこそ出来るのです。…とこれは裏方自慢。

 先程から出てくる用語"TD"にも寄り道しましょう。TDとはトラックダウンと言って、収録された歌・楽器のバランスや演出の最終取り纏め作業を指します。メディアの上で見ると、ハードディスクに記録された数々のサウンドファイルをステレオにまとめて、アナログの1/2インチのテープレコーダーに録音する作業になります。
 このまとめ先は、アナログハーフインチとは限らず色んなレコーダー・媒体があり得るのですが、谷山チームでは近年はずっとコレ(業界的にも、高品格録音では主流かな)。色々な主張があるのですが、アナログのマスターは、何となく聞きやすい・安定感が出る・音楽の魂が宿るような気がする、などと言われています。アナログは霊妙、という伝説は、耳を澄ませてみれば、今でも箇所箇所に生きています。

 ついでにTDの後、マスタリングという作業も紹介しまひょ。ここには更に霊妙な奴が待ち受けています。
 マスタリングというのは、単純に言えば、この仕上がったマスターテープから、まさにCDに書きつけるデータそのものを作る作業。それに伴い、各曲をアルバムに収録するにあたっての音質などの最終調整を行います。通常、マスタリングスタジオという専門の場所に移っての作業で、今回もユニバーサルスタジオの藤野氏にお願いしました。このヒトが自然派マスタリングというか超自然派というか、玄妙で、これまた。

 マスタリングに於ける音質調整は人それぞれなのですが、直截な人はEQ(周波数特性調整)やコンプ(音波形ダイナミクス調整)といった確立された電気的"エフェクト"を施していきます。整体に例えればこれは、凝ってる所を揉み解す、という感じでしょうか。対して藤野氏は、テレコを選びケーブルを選びアンプを選び・コンデンサーを換えては水晶をあてがう…のような手法を取ります。これは、経絡を探りツボを押さえる、とでも言えばいいでしょうか。
 水晶、って何のことやねん、とお思いでしょう。これはホンマに水晶の塊でして、藤野氏の「水晶袋」の中にジャラジャラと入っています。ここから幾つか取りだして、機材の上に置いていくのです。効くポイントとしては、例えば、テレコのヘッドの回り、アンプのトランスの上…。
 理論的考察も面白いかも知れませんがすっ飛ばすとして、しかし、ヒトが見たら怪しい工程だよな、こりゃ。でも劇的に変化するポイントがあるのです。逆に言うと、変化の見られないポイントは無視してますし。"現場"にあっては、変化がある、ということのみが重要で、オカルトって言っちゃいやん(^^;)。

 マスタリングにはタナシンさんも立ち会うことが多いのですが、今回は多忙につき、私と藤野氏で基本選択作業。テレコとケーブル。録りのテレコはStuderだったのですが、Ampexと比較。各種ケーブルとのマトリックス試験をします。ケーブルは藤野氏お気に入りの数本ですが、殆どが今流行り(なんですよ)のヴィンテージケーブル(20-40年物)。何故かケーブルは年代物が良い、ということが近年、発見されています。まぁ実際には可聴帯外のどっかで特性が落ちてるのがいーんじゃねーの、とは言われてますが、聴き比べると「音楽的」な音がするのね。「なかなか最近のケーブルは比較ヒアリングで生き残らない」と言いながら藤野氏は、最近の物で素性の良さそうな物は自宅で寝かせているそうです。そう、飲んべがひっそりと気に入りの一本をワインセラーで寝かせるように…。
 テレコは、Ampexのパリっとした音にも唸りながらStuderを聴くと「やっぱり、コレ」。そして、当たりのケーブルが来たとき、二人とも口を揃えて「ア、コレ、タナシンさんの音!」と叫びました。何か不思議なんだよなー。「これだよコレ」って感じになるんです。タナシンさんの音、って風に聞える。ああ結局は、ヒトとゆーものは、道具を超越しているのね。画家は絵筆が変わったからって違う絵を描く訳じゃなし、と思えば、自然なことですが。

 …。

 それにしてもとりとめがなくなってきたので、楽曲ごとのコメント、に転じてみましょう。

1.よその子
 本アルバムの主題、的な、大曲。これはね~、聴かせてもらって、ほんとに感動しました。
 いきなり横道に逸れるけど、感動しちゃって困るのよ。サウンドプロデュースの人間としては。サウンドを作りプログラミングしていく、なんて作業はですね、ある部分単調でコツコツとした肉体作業、業務をゴリゴリと進めていかなきゃぁならん、ちゅうに、ちょっと油断すると(?)、すぐ感動しちゃうんですよ。
 いわばブロックを積み、ペンキを塗り、目地潰しの遺漏なきやと探すような作業をしている最中に、「やっぱ人間ってかくあらなあかんよな」とか言って泣けてきちゃうんだから、たまりません。
 シゴトの邪魔や! …ってちゃうけど。いやつまり、すなわち、そういうアンビバレンツというか、人間としてバランスを欠いた作業なのです、こういう曲の打込みは。ある意味、それが一番大変でした(^^;)。ま、アルバムを通して、そうだけど。
 この曲のサウンド骨格はですね、ピアノと歌のデモを聴いただけで、すぐ見えました。俺的には、これっきゃ無い。ま、言ってしまえば、ドラマチックなロック系ポップス、編成的には4リズム+オケ…と言ったオーソドックスな王道物(ピアノは勿論、谷やん)。構成的な側面については、ピアノデモで谷やんが完全に作り込んでいます(そういえば、ブリッジのメロをオーボエで取る所ですが、俺的には絶対オーボエなんだけど、後日谷山先生語るに「何で一言も言ってないのにアレ、オーボエだってわかったの?」とのこと。ま、こーゆーのが、ツーカーってこって)。
 しかしプログラミングとしては、むっちゃ、大変です。大まかな流れで言うと(概ね他の曲も同じだが)、各楽器パートを手弾き乃至パッドで叩き→そのノリを時間軸ジャストに対して半分くらい近づけて雛型とし(これはPCがやってくれます)→そこから彫りに彫りまくって最終形を掘り出します。こういう自然な流れの楽曲では、PCが得意な「コピペ」という武器がほぼ使えませんから、た~いへんなのよ。一箇所一箇所、全部作り込んでいきます。全体には「ヴァーチャル生」型のプログラミングですが、ヴァーチャル性より、楽曲の流れを活かすことに重点を置いています。
 自慢じゃないが、とゆーか、自慢だが、手は、死ぬほどかかってます。Macのキーボードを「一回叩く毎に幾ら」という契約だったら、蔵が立つくらい。作業工程数だったら、スイスの時計職人もかかってこい、ってくらい。(なんのこっちゃ)
 さて、比較的オーソドックスなサウンドの曲ですが、幾つか隠し味は埋め込んであります。とくに、サウンド解析好きのオトモダチに着目していただきたいのは、エフェクティブなドラムのフィルの七変化。あの手この手で不思議な合の手を入れているのを聴いてみてください。
 フィルの作り方自体、様々ですが、例えば、ディレイのかかったフィル全体をサンプリングし→それをMoogのフィルタに通して変化させ→逆回転にしてから→ウチのポンプ室でスピーカー出ししても一度サンプリング→LFOでトレモロかけて行ってみよう、なんて有り様で、実はもう個々にはよく覚えてません。

2.きみはたんぽぽ
 壮大な問題提起「よその子」を受ける2曲目は、明るく前向きな「きみはたんぽぽ」。ここの曲順はすぐ決まったように記憶します。
 この曲のサウンドデザインは、既に、生まれる前から(?)決まっていたような物。当然のように現れるはチューエイさん(吉川忠英氏)で、もう、「任せたっ!」。
 チューエイさんのギターは2本入ってます。実は、「もう1本遊んでみよかな」と3本目にチャレンジしてみたのですが、何をやっても「駄目だ~、こりゃもう、出来ちゃってる」。
 ピアノもシンセも同様で、やってくるや否や、そこに太古の昔からいたように根が生えてしまいます。こういう楽曲では、「音楽の重力」のようなものを感じます。

3.意味なしアリス
 「意味なしアリス」、だと。こんなもん思いつく奴、谷やんしかいねーよ! モンデュ。ぐれーと凄い。
 これもサウンドデザインはすぐに見えました。解説的にキーワードを言うと、「60年代ブリティッシュトラッド」「サイケ」「その頃にポップスにお座敷がかかっていたジャズ親爺」。その辺りをごった煮にして現代的ヴァーチャル篩にかけて夾雑物を落としてコケティッシュに仕上げたつもり。
 こういう音は、何というか「趣味と実益を兼ねている」ような感じで、ニヤニヤしながら作りました。一見はアリスと森の動物の乱痴気サウンドで、近寄ってみたら体臭のきついロボットがいた。みたいな。
 サイドヴォーカルをサウンドスケジュール大石さんにお願いしました。正直言うと、録り始めてから「誰かいないかなぁ?」と探してお願い出来たのですが、でき上がってみると大石さんに「アテ書き」したみたいに、すげぇハマってるように思います。ありがたいこっちゃ。
 ちなみに私は、「そのへんにいた人たち合唱団」に入ってるよん。

4.わたしは淋しい水でできてる
 ご存じ、幻想図書館Vol.2「不思議の国のアリス」中の曲。これは、予定していたことではあるけど、ほぼ、幻想図書館公演時の編曲のまま、となりました。うーん、もうちょっと変えるつもりだつたんだけど、こういうのは、一度世の中に現れた物の生命力の強さを感じます(^^;)。ドラムの出てくるとこなんかも、「いかにもライブ」って感じで、何かありそうな気がするんだけど、いざ動かしてみると、よくハマってるんだよな~。
 また、タナシンさんに「このギター打込み? なの?」と聞かれました。よく出来てる、って。この曲のギターパートは、プログラミング的には割りと「打込み臭い」造りだと思っていたので意外でしたが、やっぱり、よくハマってる、ってことかも知れませんね。
 それでも、ホルンを足したり、細かい調整はしたので、公演時とまったく同じという訳ではありません。
 前後には海亀風味の爺ぃを偲んで潮騒の音を。この波音は、「ま、後でテキトーに使ってけれや」と、頭からケツまでダーっと入れてあったのですが、TDの出来上がりを聴いてみると、後半、曲の合の手として見事にザッパ~ンと嵌まってます。うぉっ、と驚いていると「フッフッフ」とタナシンさんの笑い声。ハマりのポイントを探して移動したそうな。オジサンも好きね~。
 ただ、何箇所か調整しなければいけないか、と思った所、最初のポイントを合わせたら、以下も偶然ピタっと嵌まっていたとのこと。これは偶然なんだけど、SEの合わせでは、意外によくあることです。自然の呼吸と音楽の重力って、何処かで重なってるんだよ、やっぱ。

5.卵
 これも凄い曲。しかし何ですよ、皆さん、もうレコーディング直前、っつうかレコーディングに入っているようなタイミングで、こんな曲持ってこられちゃうんですよ。シクシク。鬼の谷山御大。泣きながら作りました。泣いちゃいるけど、気持ちいいんだよなぁ、コレ。いや、曲の内容は、気持ち悪い、って言った方が正当なのかも知らんが(^^;)。
 最後は気絶したまま打込んでいた気がしますが、とても気に入ってます。
 この曲のサウンドも、絶対コレだと思うが、表現すると何なのかな。ホワイトレゲェ系ロックだとは思うんだが、むしろ、昔誰かが言っていた「谷山さんって、パンク・フォークだよね」と言うのが合ってるのかも。
 私の心づもりでは、もっとSoprano Saxが前に出てエレキギターが遠景に行くつもりだったんだけど、タナシンさんのTDを聴いてみると、エレキギターがしゃしゃり出てました。確かに虚心に聴いてみると、これが正解ですね。タナシンさん曰く「エレキが気持ちいいからさ~」。うん、このエレキは私が鍵盤で弾いたものですが、うまく行ってくれたと思います。
 曲間のピアノのみの間奏のとこは人知れずリタルダンドしてます。興味のある人は地味にほくそ笑んでください。この箇所に限らず、この曲の間奏はバリエーションに富んだ物を谷やんが作り込んでいて、これがまた苦労…(略)。

6.沙羅双樹
 風格ある名曲。自然に、自然に録ろう、と。
 ドンカマ無し(すなわちフリー・テンポ)でピアノを録る。ステージ上でシンセ鍵盤に向かってるつもりでシンセを入れる。そしてお馴染み斉藤ネコ先生を呼んで、バイオリン入れ。
 …と、101人コンサートのような気分で自然に大らかに作り上げることで、この曲の持つ生命力を表現したつもり。
 尤もそれは精神的なもので、実際の技術的には、細部で各人、レコーディングらしい苦労をしています。ネコ先生もヒィヒィ言いながら帰って行かれたことでありました。

7.空に吊されたあやつり人形
 普通の人なら「あやつり人形」と略称する所でしょうが、おわかりの通り、谷やんではそうも行きません。「空吊り」と苦し紛れの略で私は呼んでいました。フルネームで呼べよ、と言われそうなもんですが、長いんだもん(^^;)。
 サウンドはやっぱ、コレでしょう。谷山先生も「これはAQ!得意中の得意だと思ってた」とのこと(さらに「でも、ここまで行くとは思わなんだ」とのこと)。俺的には、自然にコレなんだけど、無理に表現してみれば、これはですね、「架空の近未来テクノポップ」ってとこでしょか。
 個人的感覚ですが、80年代に混然として存在した「テクノポップ」が90年代に「テクノ」に進化していく過程で、何故か捨ててしまったポップ部分があるような気が、いつもしています。その失われた近未来部分を妄想して広げることが、個人的関心事ではあります。
 …なんってぇのは、言ってみただけぇ~、でもありますが(^^;)、ま、とにかく、俺的には秘術を尽くして展開したサウンド(山のように切り分けられたサウンドファイル、迷宮のように入り組んだプロセシング)だす、お楽しみ下されば幸い。
 また、テクノに於けるチェロ、って好きなテーマなんですが、とくに最初の間奏で出てくるチェロのソロは、本作中で「コレ、俺が作ったんだよ~」と叫びたいマイフェバリットの一つ。

8.ここにいるよ
 ひゃ~。ピアノ、良すぎ。聞けば聞くほど。歌は、一回OKを出したものの、どうも「オスマシ」具合が気になりだし、録り直しました。ますます、良すぎ。
 この曲にバイオリン入れよう、とか、色々言ってたんですが、録ってみると、もう、どうにも動かし難い。参りました。降参して完成。

9.あそびにいこうよ!
 「ここにいるよ」に続き、岩男さんへの提供曲。こちらは崎谷さんの曲で、ですからとてもカラフルで高い水準の技巧が凝らされた曲。編曲を考える耳で聞いてみると、「育ちやすい」曲なんです。音を色々と入れたくなる曲。ですが、谷やんの意向は、「割とサラっと」行きたい、と。軽く、ゴテゴテせずに収録したいとのこと。
 その線で考えたのがコレ。まず、チューエイさんにギターをお願いします。アーティスティックにパワーがあるギターを入れることで、結果的に他の楽器を減らせるのでは、という読み。
 リズムに関しては、やはり「無し」では持たない感じがあり、CR-78というヴィンテージリズムボックスを起用しました。これは、もう25年以上前のローランド社製なのですが、私は未だに実機を持っていて、ここでも実機からダイレクトに組んでいます(最近では"CR-78サウンド"が使われることがあっても、サンプリング等によるものが殆ど)。「心地よい単純さ・軽さ」を狙っています。
 チューエイさんとCR-78という、二大ヴィンテージ物を取りそろえて(シツレイな!(^^;))、以後の展開はそれから考えました。ベース・バイブ・フルートという登場人物は、チューエイさんのプレイに呼ばれた感じ。
 フルートは、ちょっとその気になって凝ったフレーズを書きました。タナシンさん評は「このフルート、かっこいいねぇ」、谷やん評は「このフルート鳴ってると音程が取れないやんけ、ライブでは使用禁止!」とのこと(^^;)。

10.花野
 芸術祭大賞「神様」の挿入曲でインスト。オリジナルアルバムでのインスト収録は随分久しぶりでは。
 「神様」放送時には後半メロはチェロで奏でていましたが、ここでは斉藤ネコ先生のバイオリン。譜面でメロを弾いてもらってますが、譜面通りに弾くネコ先生、とゆーのも、かなり前例が少ないのではないでしょうか。
 「こーゆー、シンプルなメロを淡々と弾く、ってのがぁ、一番、難しいんだからね~、わかってる~?」
と、先生のこぼすことこぼすこと…(^^;)。おかげさまで素晴らしい演奏です。

11.神様
 そして、「神様」のテーマ曲。いい曲ですよねぇ。放送時やその後のライブでの披露時には、イントロやブリッジが無かったのですが、今回は付け足しました。その他は、ライブでやっているのとかなり近いままだと思います。
 このドラムはRM-50というマシンに入っているジャズブラシっぽい音色なのですが、「生っぽいドラム←→機械っぽいドラム」の複素平面上では独特な象限に置かれそうな、変なヴァーチャル感があります。色々やってみると、うーん、これがやっぱ上手く行ってるみたいで…、そのまま。
 イントロは私が作りました。これは正直、故・松本順氏(NHK「神様」のディレクター)に捧ぐ、という部分のあるもの。ご存じの通り、氏は、「神様」の完成後、若くして亡くなってしまいました。氏が亡くなったことは、私にとって、「松本っち、死んじゃったんだなぁ」って感じであり、まるでいたたまれないという感じであり、涙が止まらないという感じであり、ただ茫然という感じであり、、、つまり、何とも未だに整理のつかない出来事です。聞えてますよね、まつもっち。合掌。
 しかし、「別曲がくっついた」タイプのイントロなので、今後のライブでどうしようか、は、まだ思案中。
 最初のブリッジは谷やんの作り込み:「サラっとこんな感じで」。オーボエの間奏メロは、私がライブ時にアドリブで弾いていた物をヒントに、整理しました。けっこ~、気に入ってます。泣けと如くに(…と勝手に一人で泣くワタシ)。


 
AQ! 第9回
   君知るや、エレベットチェロの妙なる響きを 
 な~が~い な~が~い~ と~きが~ な~がれ~ た~ (「かくれんぼするエコー」調で…)。
 むむむ、ここはどこ、私はだれ?

 といったようなことがございまして(何がじゃ)、永らく更新をサボりまして、まことにあいすいません。あー。うー。気絶してたふり。
 …とやらかくやらあるうちに、うやむやにまた、書くぞ(^^;)。
 お暇と御厚情をもちましてお付き合いくださる皆様、一つよろしくお願いいたします。

 どこから始めたものか、とにかく、今回の一席は「空飛ぶ日曜日」から、「少女は……III」を取り上げてみようと思います。
 1985年。LPレコードだもんな~。本当に、技術において激動の時代を生きている私たちなんですね、フォ~。録音は、2インチテープが回るアナログマルチ24ch。そういえば、初回1万枚(不確か)とかが、緑色のカラーレコードでしたね、このアルバムは。
 20年前は、どこの家庭でも、この30cmもある円盤が回っていたかと思うと不思議な気がします。しかしなんだよなぁ、LP対CDの音質比較は、ま、一長一短で、イージーにハンドリングする限りはCDの勝ち、という風に思いますが、最近はmp3とかCCCDとかというLPにもCDにも劣る音質のメディアで少なからぬ音源を少なからぬ人々が聞いてる訳ですよねぇ。技術の進歩、って、一体何なんだろ(^^;)、と思われぬるかな秋の空。
 まぁ、質より便利、というのは人間の性と思うものですが、技術ってのはその性を救うものでもないといかんのではないかどうかと(^^;)。
 録音機材の方は、96や192kHzの24や32bitでも使いやすい環境になってきてはいるのですが。最後に44.1kHz/16bitに押し込めるのが大変だけど。

 …と、やはり話は逸れるわけだ(^^;)。

 そんな85年。ここんとこ「エイティース」ブームとかでっち上がって、80年代はホットなディケードだ。(かよ)
 (多くは言わないが(^^;))当時の、(いまだ)稚気だらけの人間と稚気だらけのディジタル機材による、何というかアイディアに対して非常にrawな表現は、独特の面白さを感じます(とか言ってくれよ)。でも80年代的なるもの、って、世の中全体として、そういうものはあったんだよね。(^^;)
 そして80年代産物の多くが、今聞いてもたいへん面白いのは事実。

 「空飛ぶ日曜日」は14曲も入って、とってもオトク(^^;)。これはオリジナルアルバムの中では一番多い曲数ではないでしょうか。曲が沢山出来ていた、ということもあるが、谷山さんは「(ビートルズの)ホワイトアルバムみたいに、曲が、どんどん、どんどん、どんどん出てくるのがイイ~っ」と言って、目指せホワイトアルバム、という気分で作ったと記憶しています。CD76分の計算じゃなくて、LP時代の14曲ですから、かなり詰めないと入らない。間奏とか、ゴテゴテしたイントロやアウトロとか、が無い曲が多くて、そういった意味では独特の聞き心地のあるアルバムだと思います。
 世の中全般として大雑把にいうと、ポップスって、時代につれて一曲がどんどんどんどん長くなってきています。いろいろ背景があるんだろうけど。しかし、1曲5分に慣れた耳で、1曲2分半次々連発、を聞くと、これがまた新鮮なんですわな。

 …はいはい、すいません、本題に行きます。はい、すぐ行きます(^^;)。

 吉原幸子さんの詩をとりあげた「少女は…」シリーズです。特定のカラーを持った曲シリーズですので、コンサートなどで演目としてかかることは少ないですが、魅力ありますよね。このアルバムは鈴木志郎康さんの詩によるものも収められていて、詩壇の香り豊かです。
 さて、この「少女は…」のIIIに、等クンを頼もうということになりました。今ではお馴染中のお馴染の渡辺等さんですが、谷山レコーディングでは、この曲が初登場だったのではないかしらん。
 レコーディングにミュージシャンを頼む、って、実際にはどうするんでしょうか。渡辺クンちに電話して「もしもし~、AQですけんど、*日にベース弾きに来てくれへん?」って頼めばいいんでしょうか。いや、それでいい、んだけど、お仕事ですので色々面倒なこともあります。ミュージシャン一人だけならまだしも、不在かもしれないオトモダチ何人もに電話して回る、って、レコーディング中じゃ大変だし。
 それではどうするのでしょう。ここに現れるのが「インペグ屋」さん、です。インペグ屋。変な言葉です。「インペグ屋」「ドンカマ」「劇伴」「アタマ・ケツ」…、あたりが、音楽業界に入った人が最初に面食らう用語でありましょうか。業界では広く普通に使われている語ではあるのです。
 インペグ屋とは何か。一言で言うとミュージシャンの手配師であります。山谷とか西成に乗りつけて、トラックの後ろに山のようにミュージシャンを積載してスタジオに届ける業務者のことであります(嘘)。
 インペグ屋さん、は、録音作業の打ち合わせから立ち会い、アーティスト・編曲家・ディレクターなどの要望があったミュージシャン(インペグが優れたミュージシャンをサジェスチョンすることもよくあります)とコンタクトをとり、スケジュールを調整し、滞りなく演奏を行わせ、落語で言うところのおタロを払います。
 このギャランティ、すなわちお金の支払いだけ考えても、実は大変なのです。ミュージシャンのギャラは、原則「とっ払い」(現金その場払い)です。これが、ギターとベースとドラムス、くらいの編成ならまだいい。しかし例えば、これに更に通称6.4.2.2などと呼ばれる14人編成のストリングスが入っていたらどうでしょう。それに更に木管3本。更にコーラス2人。…などとなると、この大勢の人間にギャラをボンボン払っていくならば、その現金の額たるや、天文学的なもの(for me(^^;))となります。この天文学的現金はハンドリングが大変なばかりでなく、後々にレコード会社などからまとめて納金されるまでは、インペグ屋さんが肩代わりして支払っているものです。こんな点一つとっても、「専門業」が必要なのは何となくおわかりいただけるでしょうか。
 それにしても、この語「インペグ」っていったい何やねん? 一説には…とゆーか他の説は聞いたことがないが…「インスペクター」の略である、というのですね。
 は?
 ミュージシャンを探してしょっぴいてくんのか? にしても、何でグと濁るねん?
 俺たちはインスペクトされておるのか?
 というような疑問には一切お答えしないのが、我がギョーカイである。家元は帰るぞ。
 …いや、帰らないのですが、家元でもないのですが、ともかく、インペグって言うんだよ、勘弁してくでよー。
 ちなみに英語圏では、「ミュージシャンのコーディネータ」(わかりやすい)と呼ぶようで、近年は日本でもアルバムのクレジットにインペグ屋さんの名前を入れることが多くなりましたが、その場合の表記は大概、コーディネータですね。…だけど、業界内部では、99%全員が相変わらず「インペグ屋」と言うてます(^^;)。「インペグはどこで?」と言えば「**で」で済みますが、「コーディネータは?」と聞いたら「ハァ?」と怪訝な顔をされることでしょう。

 さて、「少女は…III」に戻りましょう。アルバム「空飛ぶ日曜日」でインペグを担当したのは、この前後ずっと面倒をみてくれていたレガートミュージックです。レガートミュージックの社長は飯島さんと言い、谷山周辺では(多分その当時のディレクターの本郷さんのせいですが)「蝿のオジサン」という壮烈なニックネームで愛されていました。ホントに好人物で優しくて五月蝿いヒトです。私もさんざんお世話になりました。(そういえばその昔、愛染恭子オネーサマのビデオに音楽を付ける、という仕事をしたことがあるのですが、それは飯島さんのプロデュースだった)
 飯島さんは元々はジャズのドラマーだったのだけど、それが、まぁドラマーにとっては宿命の病ですが、人類の下半身中心部付近の持病に悩まされた揚句、インペグ屋に転じたという経歴の痔主…もとい持主です。レニー・ホワイトが好きなんじゃなかったかな。そんなこんなで、谷山レコーディングではインペグの傍ら、タンバリンを叩いてもらったこともありますが(曲忘却…どれだったかなぁ)、ほとんど玄人です。それから「恋するニワトリ」に登場する“怪しいシンガー達”の一人でもあります。“怪しいシンガー達”は素人と言うも恥ずかし…(略)。

 もっとも今回の主人公は飯島さんではありません。アルバムレコーディングを通して社長自らが付き合う訳ではないのですね。一般的にアルバム丸ごと依頼されたインペグ屋さんでは、立ち上がりの時期や大編成の録音などを主だった担当者が引き受け、それ以外は若手が受け持つことが多いのです。「少女は…III」の打ち合わせ時に立ち合ったのもレガートミュージックの新人クンでした。ここで前述の通り、我々は渡辺等さんを起用したく思い、カレにお願いしたのでした。
 それから数日して。
「あ、渡辺さんスケジュール、オッケ~でしたよ。それで、楽器はどうしましょう?」
「う~んとね、エレベとチェロを、って言っておいて」
 楽器は何を?、と言うのはマルチ楽器プレイヤーを頼む時にはつきものの質問です。とくにベーシストの場合は、一口で“ベース”と言っても、エレキベース・(エレキ)フレットレス・ウッドベースとありますから(大雑把に分けて、の話。楽器論的に細かく分類すると沢山あるけど)、何が必要なのかを伝えておくのが通例となっています。

(つづく 2004.6)

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