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 メールでリレー小説2008 第二章    

   第一節 「褐色の森林へ
   第二節 「茶色の卒業アルバム
   第三節 「虹色のビルディング
   第四節 「黄金色の出汁の囁き
   第五節 「みずいろの鯉


   → 第二章:署名入りバージョン
   → メールでリレー小説2008:目次

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☆第二章 第一節 「褐色の森林へ」

  [第一節のしばり:島から出てはいけない。]

 目の前に広がる森へおそるおそる進んでいった。
 人は誰も住んでない無人島なのか。今のところ動物の気配もない。この世には、僕と私の足音しか存在しないかのような、静かな森。褐色の木漏れ日が、ほのかに背中を温める。なぜかわからないけれど、安らかな気持ちになってくる。
 柔らかな光の暖かさに導かれるように森の中を進んでいった。
 森の中を進むほどに濃密になる空気。濃厚な褐色の空気は、最上級の出汁の香りを放っていた。
 僕と私はやっと来た。
 ここがあの…
「憧れのハワイ航路!」
 そんな言葉が私の口をついて出た。たゆたう褐色の空気を、ふと揺らしてみたくなったのだ。
 僕も負けじと
「思い出のグリーングラス」
 とつぶやくと、視界にきれいなさざ波が走る。
 なんだか空気が澄んできたみたい。
 森のなかにぽっかり円形の広場が見えてきた。大きさは畳百畳くらいはありそうだ。その中央に巨大な鍋を載せた囲炉裏があり、出汁の香りは頬を打つばかり。
 その囲炉裏の裏から突然姿を見せたのは糊のきいたウィングカラーの白シャツがよく似合う褐色の男。
「やあ、これはいらっしゃい。今、お茶をいれてあげましょう。この島は初めてですか?…あ、私は、人食い土人のフライデーと申します。もう一人、サタニックマジェスティーズをノリノリで聴いているのが弟子の少年サンデーです。」
 見るとタバコをふかしながら内ポケットのトランジスタラジオに耳を傾ける少年が、笑顔で湯気の立ちのぼるカップを差し出す。
「飲んではいけない」
 本能が警告したのに、僕は飲んだ。銀色の湯気の向こうに透き通ったお茶がゆれて見える。きれいな黄色だ。
「どう?」
 聞かれて、顔をあげた。正面にいる少年サンデーの顔を見て、僕はぎょっとした。
 …魚…。
「うきゅきゅきゅっ!」
 少年サンデーは甲高い笑い声を上げ、ひらりと身を翻したかと思うと、鍋に飛び込んだ。
 ギラン。輝く鱗。目が眩んで僕は、鍋に倒れかかる。
「危ない!」
 私の声。
 だけど僕は見えない腕に引き寄せられるように、金色の、虹色の、玉虫色の、鱗に魅せられるように、鍋にドブンとダイブ!…してしまった。
 鍋の中は不思議に広く、広いというか、そこはまるで草原だった。出汁の空気(?)のなかをゆっくりと少年サンデーが泳いできた。
「さ、きゅえすちょんだよ。間違ったら君、出汁だし。」
 大きな黒目が輝いた
「さてここはどきょでしょう?」
 僕は僕がどこにいるのか知らない、あてずっぽうに
「さいはての島!」
「おしい!、上を見てごらん」
 見上げると暮れかけた空に降るような星が輝いて、、いや蠢いている。
「ここはひよこまめできゅ。おきゃえり!」



 
☆第二章 第二節 「茶色の卒業アルバム」

  [第二節のしばり:誰かしら登場人物が月面中学の卒業アルバム(の頁)を指して何か言う。]

「えー、こんな奴いたっけ?」
 板野が素っ頓狂な声をあげた。手にした茶色い革装の月面中学第39期卒業アルバムの、野球部集合写真だかの頁を指して、不思議そうな顔をしている。
 机山は、午前中から煮ていたひよこまめの鍋の火を弱め、
「うっせーなぁ、煮込みの最中は邪魔すんなっていっつも言ってんだろ?ったく…」
 机山は黄色いひよこちゃんの刺繍のあるエプロンをはずしながら
「で?どこ?どいつだって?」
 板野は再び同じ場所を指差し
「ほら、こいつだよこいつ。沢田と長塚の間にいるじゃん、これ」
 アルバムに顔を寄せた机山は、最近伸ばしているヒゲをしごいて
「エキストラじゃねぇのか」
 とつぶやく。
 前後2列に並んだ部員とコーチと監督その他もろもろ。板野が指しているのは、後ろの列の右側に写っている奇妙な帽子を被った部員だ。
「えーと、どれどれ。え、なんだこいつ?!変な帽子、じゃない、これ、嘴じゃないか?」
 机山の声がひっくり返る。二人で顔を見合わせたその瞬間、同時に記憶が蘇った。
「キョロだ!キョロ!しかも皮がはがれてるピーナッツのほう!」
「そうだ。しかもいつも赤ら顔でな〜。」
 板野が指差す写真に何食わぬ顔でおさまっている酔いどれマスコットは確かに、その日グラウンドにいた。
 羽のない胴体を左右に振りながら、
「ヒットで1エンゼル、ホームランで2エンゼル、5枚で金銀パールプレゼントだぞまいったかクエ〜!!」
 と騒いでいた。あれって応援になっていたんだろうか。
 よく見ると、キョロの目はカメラではなく、前列の部員の一人に釘づけになっており、嘴はその部員の後頭部に突き刺さっているように見える。部員の顔色は心なしか青ざめている。
 机山は部員を指して
「こいつ、図書館ていったよな、たしか写真取った翌日に脳内出血で倒れてそのまま、、あれ?図書館には昨日も会ったよなあ。」
「お前、高熱出して葬式は来なかったからな。坊サンがお経読んでいる最中、"ンドンゲの花〜"と叫んでカンが生き返った時にはタマゲタよ、三途の川の泥舟から戻ったとかなんとか言って、左手には白い靴下握りしめているし、右手にはお玉、ズボンのポケットに『懐かしの名曲選』ってCD持っててさぁ」
「それであの頃みんなHELP!とかUFOとかやたら歌ってたんだ」
 板野がアルバム内のキョロと館を交互にみながらつぶやいた。
「にしても生き返るって何だ?ンドンゲって何なんだ?」
 すると、アルバムの中の館がニヤリと笑って、空の一点を指し示した。
 そこには一人の生徒がマルで囲まれて写っていた。
「お前ら、忘れたのか。伝説の死神ゲンどんのことを。その名を口にした者は瞬時に死に至り、その名を逆から呼べば生き返るという、那覇野ゲンどんのこと…ウッ、しまった…」
 そう言うと、今まで写っていた館の姿は、アルバムから消えてしまった。
 名前もない。
 マルで囲まれた中から、死神ゲンが私達を睨みながら言った。
「俺の名前を逆さに呼んだら、今度はお前を殺す」
 私は怖くなって二度と卒業アルバムを開けないように、川へ捨てた。
 私達は中学時代の話しを一生しないと決めた。



 
☆第二章 第三節 「虹色のビルディング」

  [第三節のしばり:asoboビルのフロアガイドにある階の名前を、少なくとも必ず1つ使うこと。]

 私は八百屋(9F)の娘。
 名前はベジータです。
 お父さんとお母さんとの三人で、駅前商店街のお店を切り盛りしていたのですが、1000階の駅ビルが建てられて(まだ完成していませんが)、そのテナントになっています。
 今日は水曜日でお店は休み。退屈なので、シャッター街と成り果てた駅前商店街で健気に営業を続けている、幼馴染のカレー屋ケンちゃんの所に遊びに行こうと思います。
 とその前に、623階の天かす丼専門店 天かす丼105円ではらごしらえしようとエレベーターまで…と思ったけどその前に、とっても気になっている本日出来立てのカンタービレ・ボクシングジム明日のためにその 1「歌うように打つべし」(849F)に寄り道したいと思います。
 _ 一汗かいたあとは、お母さんに申し込み書類をもらってきてと、頼まれていた、「八百屋お七」火災保険(810F)へよってこよう。39階分階段を駆け下りるよ。
 あやべっ。
 39階降りるつもりが、勢い余って399階分降りちゃったよん。
 「450F すみれの花咲く頃、宝塚asobo劇場」だって。折角だから、観劇していこうかな。
 今日の演目はなにかしら。
 キャッチフレーズは「忌まわしき傀儡どもの群よ、銀河の波に呑まれ砕けよ」…そうか、これって銀河のセット?、と足下の水の流れに目をやるや、ドーン!という爆発音、続いてバサーン!と水しぶきが上がって現れたのは白い靴下を口に咥えたウミガメ風味です。
 そうか、階下のタイニイ・アリスから飛んできたセットか、と思ったら違った。
 突然の館内放送。
「サブプライム問題の余波で当ビル32階より上は31階のの藻くずと消えつつあります」
 だって。
 おそるべし。だからをテナントに入れるのは反対だったんだよ。
 オマジナイに「ンドンゲの花」を摘みに823F「宇宙で一番遠い銀河IOK-1ツアー」で宇宙の果てまで行ったけど見つからない。
 350F「四角いプールで作りたて、プリンの海を泳いで食い放題」も落ちて一面プリンの世界に!
 756F「空中楼閣」から上は宙に浮いて大丈夫!
 鞍馬天狗とご飯食べようか。やっぱり164F 横須賀海軍カレーあつあつの出来たて無人販売所にしようか。
 行ってみたけど、ケンちゃんに会いたくて、会いたくてたまらなくなってきた。だって、寂しいという気持ちを初めて覚えたのはケンちゃんのせいだもの。
 行かなきゃ。そして二人で662F プラネタリウムを並んで見たいって誘わなきゃ。ケンちゃん、案外おっちょこちょいだから、まちがえて775Fのうどんプラネタリウムに行っちゃったりして。そしたら二人で「君の名は」ごっこ、できるわね。
 と、その時また突然の館内放送が
「浸水で269階の豆まきマシンは故障中。大量のひよこまめを吐き続けています。処理のため650Fのブラックホールを放流しま」
 最後まで言い終わらないうちにシュバッ!
 ビルはブラックホールに呑まれて消えてしまいました〜。
「サラ、ごはんよー。またasoboビルごっこ?」
「もう終わったよー」
 私はサラリーマンの娘。
 名前はサラです。


 
☆第二章 第四節 「黄金色の出汁の囁き」

  [第四節のしばり:「出汁」あるいは「ひよこまめ」の言葉を一回以上使う。]

 鳥のさえずりで目を覚ました。
 朝になっていた。そうか、ひよこまめの島に来ていたんだ。
 ついつい鍋の中で寝てしまった。
 中学の友達の夢や、ヘンなビルの夢を見てしまったのも、この出汁の香りのせいだな。懐かしいこの黒ひよこまめの香り、黒いんげんまめとも黒豆とも違うエキゾチックな香りが僕の心を過去へと飛ばす。
 香りで目が覚めたらおなかがすいてしまった。
 ひよこまめは出汁だけじゃない、潰してフムスに、揚げてファラフェルに千変万化の大活躍、食膳の二十面相、鍋の中の七面鳥、嫁入り道具の三面鏡…。
 いつのまにか二度寝していたようだ。
 覚めぎわの夢では、黄金色の出汁で沐浴を済ませたひよこまめの花嫁が、カダイフのレースを身にまとい、にっこりとこちらにほほ笑んで「ボナペティ」か何か言った。ひよこまめが花嫁だった。すると僕は花婿だよな。それじゃ私は?
 そのへんがどうも出汁のように混沌としているんだわ、この鍋は。
 たしかプラトンとソクラテスが共演して、アンドロなんとかが真っ二つに分かれ、片方が私、もう片方がひよこまめに、いや片方が私、もう片方がひよこまめだったかな?いや違う、片方もう片方がひよ…ひょひょ…。
 いつのまにか三度寝していたようだ。
 覚めぎわの夢では、鳥のさえずりで目が覚めたらひよこまめの島に来ていたの。片方の私は鍋の中、もう片方のひよこまめは鳥とお話ししていたんだっけ。その鳥の羽根は真夏の太陽みたいにギラギラして目に刺さるよう、眩しくてやぶにらみの鳥の目はひよこまめのようだった。花婿の僕は、ひよこまめの花嫁と初めての共同作業に取りかかろうとしていた。黄金色の出汁で満たされた鍋の中に、花嫁をお姫様だっこして運び、そっと横たえると、司会業を営む友人が新婦お色直しへと滞りなく宴を進めている。
「盛大な拍手でお見送り下さい!」
 割れんばかりの拍手の中、出汁の入った鍋を乗せた山車がひよこまめを運んでいく・・・。
 いつのまにか四度寝していたようだ。
 覚めぎわの夢では、ーーーー出汁の入ったひよこまめのなべが、入り口のドアにひっかかり、鍋がひっくり返り、出汁が会場中に流れ出しみんなが出汁まみれになった夢だった。出汁の急流に揉まれて、俺の目の前で私と僕の身体がゴツンゴツンと衝突している…。…?お、俺?私と僕と…。
 黄金色に霞む風景の中、三人はウドンゲの花の茎につかまって小舟に這い上がった…。
 いつのまにか五度寝していたようだ。
 覚めぎわの夢では、まるでマトリョーシカみたいに、開けても開けても、覚めても覚めても起きれない僕がいた。
 マトリョーシカの一つ目を開けると、机山と板野がこちらを見ていた。
 二つ目を開けると、女のコが一人ぼっちで膝を抱えていた。
 三つ目を開けると、ひよこまめが出汁のシャワーを浴びていた。
「いやん、館さんのエッチ。」
 びっくりしてふたをしたとたん、目が覚めた…赤煉瓦造りの建物、「区立図書館」前に僕は立っていた。


 
☆第二章 第五節 「みずいろの鯉」

  [第五節のしばり:区立図書館の敷地から出ない。]

 風見鶏が、からかうようにくるくる回っている。
 僕はほうっと一息ついて、赤煉瓦造りの「区立図書館」のどっしりとした門柱をくぐった。
 でも不意にモラトリアムな気分に襲われ、建物裏手の庭園へと回る。
 古池から水色の鯉が、
「お前さんたちはワシら鯉のことを悪食だ、と言うがな。ワシを見て、水色と思ったか? これは空の色なのじゃよ。ほら、そこに旨そうな空が…」
 と大口を開けて飛び上がる。
 晴れた空からベリッと音がして、裂け目には漆黒に銀河が輝いている。
 なんだか寒気がして、僕は、くしゃみなんかしてしまった。
 鯉が空の破片を飲み込んで、のんきに
「古池や鯉が飛び込む」
 とまで詠んだとき、突然現れた大熊猫の奇襲を受けた。
 ぱくっと空中の鯉をくわえた大熊猫。しかし鯉はにっこり笑い
「ああ神様、身をもって俳句を詠める幸せに感謝します。古池や鯉が飛び込むジャイアントパンダの胃袋の中(字余り)。…り。」
 それだけ言うと息絶えた。大熊猫は
「モガモガ、ごっくん」
 あわてて鯉を丸呑みにすると
「リ…り…理科室の試薬を飲んで整腸す、ああ良い句。でも試薬よりは胃腸薬だなー、胃腸薬、名月を見て」
 とまで詠んだとき、突然現れたティラノザウルスの奇襲を受けた。
 ぱくっと大熊猫をくわえ上げたティラノザウルス、しかし大熊猫はにっこり笑い
「ああらしを!おおこして!すうべてを!こ・・」
 それだけ言うと息絶えた。
 頭上の雷鳴にふと空を仰ぎ見ると、青空の裂け目から暗闇が流れ出し、群雲の渦巻く嵐の予感。
 降られては敵わんと、傘を持たないティラノザウルスはそそくさと図書館入口の軒下へ向う。冷たい強い風が地面を這い、鋭い稲光とともにぽつぽつと雨が降り始めた。
「いやだわ!」
 雨宿りしようと試みるが、身体が大きい。
「もう!頭は入るけどおケツが濡れるじゃないの…」
 冷え性のティラノサウルスはガクガクブルブル((((;゜Д゜)))と震えだした。巨大な体躯の振動は、区立図書館を激しく揺さぶった。壁面の煉瓦が剥がれ落ちてくる!と危険を感じて後ずさりする僕の目に映ったのは、ゆっくりと剥がれてくる煉瓦模様の壁紙



☆登場人物




★みんなの自己紹介 (名前をクリックすると各人のホームページに行けます)
ひろぽにょ谷山浩子です。泳げません。自転車に乗れません。ボウリングのタマが持てません。
kneo 吉川邦夫、「フネ」ともいう。長い翻訳家生活を経てリレー小説家に。
AQ  石井AQです。リレー小説の親を生業としております。
へべ  石井へべです。ゴーヤの種をまいたら生えてきた!と喜んだものの、収穫はアケビくらいのチビばかりでした。トホホ
Zom  観てね(^^) 東京国際映画祭で観た「ビヨンド・サイレンス」最高に面白かった。グランプリが取れて嬉しい(^^)。2004年のベストワンかも。
koda2 こだです。ぴよと名付けた鵯と暮らしています。
時雨亭曲水  謹厳実直悪戦苦闘疲労困憊なサラリーマンです。仕事の合間に観劇と曲芸で人生手いっぱいです。
リカ好きなことは自転車と雲見、旅と映画です。
ミズオ平川瑞穂です。時々、小劇場で役者やってます。最近、\1,050-のSuicaペンギンのぬいぐるみを探して、交通費倍以上使いました〜(^^;
ミッシー舞台俳優
森みりん森みりんです。よろしくお願いします。かにこと金子森と、みりんこと保科美佐緒の役者コンビの連名です。ゴーストライター募集中です(ToT)


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