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 メールでリレー小説2004 第一章 

   第一節 「森鳩と山鳩
   第二節 「湖 畔
   第三節 「心の旅路
   第四節 「夢の濁流
   第五節 「迷走航路
   第六節 「鏡の向こうの世界
   第七節 「揺らめく風景
   第八節 「邂 逅
   第九節 「知るも知らぬも有耶無耶の関

   ・第一章解析:森山鳩実は誰だ?
   ・第一章解析:藁夫と略夫とわりゃ人形

   ・第一章 署名入りバージョンを読む

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☆第一章 第一節 「森鳩と山鳩」

 空豆が3つ。方位磁石とくしゃくしゃのティッシュ。それがポケットの中身のすべてだった。
 俺はほおーっと深い溜息をつき、藁夫と過した秋を思い出す。その情景だけを思い出す。ちょっとした黄金が地面にへばりついたような畑の上に馬鹿馬鹿しいばかりの青が、測りかねるくらいに広がっている。その空に、ひっかき傷をつけるように飛ぶ2羽の鳥。
 森鳩と山鳩だ。
 うすら笑いを浮かべた藁夫が
「森鳩はパロンブ、山鳩はペロンボと鳴く。なぜだかわかるかい」
と俺に謎をかけた。
 そのとたん、空にさざ波が走ったように見えた。
 森鳩は、その波に乗って青空の彼方に飛び去り、山鳩は誰かに撃たれたように、俺たちめがけて落ちてきた。いや、そいつは俺たちを目指して急降下してきたに違いない。だって藁夫は、けらけら笑いながら立ち上がり、俺を突き飛ばして逃げていく。
「待ってくれ」
 後を追う俺の頭のてっぺんに山鳩がとまり声高らかに叫んだ。
「私の名は森山鳩実」
 鳩の名なのかそれは?
asb000 「私は2つに引き裂かれた魂。1つは森鳩となって空の彼方へ飛び去り、1つはここにいてお前に語りかける。私が再び一人の森山鳩実に戻るため、お前の助けが必要だ」
 助け?
「私は実を落とした。実を探せ」
 高飛車な命令口調に俺は
「ミノルってだれだ!」
と思わず叫ぶ。鳩実は応えて
「それは私の一部であり、道標である。お前は私の道標を探すための道標となるのだ。」
 俺は道標などごめんだ。俺は藁夫を探さねばならない。立ち去ろうとした俺に鳩実は
「私もそうやってあがいた時期があった。お前もじきにお前自身の役割を認識するであろう。我々は道標の中の道標の中の道標という同じ運命を背負っているのだ。」
 俺は鳩実に向かって思いきりアカンベーをしてやった。道標がなんだ。役割がなんだ。俺は俺だ。藁夫はどこだ。こだまが響く。
 おーい、おーぃ、ぉーぃ、どこだー、どこだー・・・。
 ふと我に帰ると、俺は一人で山の展望台にいた。消えたこだまに空しく耳を傾けた犬の姿勢もそのままに、尻はすでにカチンコチンに冷えている。景気づけに景色でも見てやろうと赤錆びた望遠鏡に50円玉を押し込んだ。
 ガチャ。
 急に明るくなった視界に飛び込んできたのは1羽の鵯。愁いを含んだ視線がこちらを窺っている。
「この表情はまるで…。いや、そんなはずは…。」
 俺は、心の中で自問自答した。いや、紛れもない。この緑がかった灰色の瞳は三年前、アマゾンでポロロッカに飲み込まれ行方不明のシモーヌのもの。シモーヌの生まれ変わりなのか。この鵯がシモーヌの行方を知っているのか。
 飛び立とうとする鵯にあわてて手を伸ばすとバランスを崩しベランダから転げ落ちる。
 落下する俺の耳元で鵯がささやいた
「パロンブ、ペロンボ、ポロロッカ…」
 その鵯のささやきに、俺は今の自分の状況も忘れ、考えにふけった。
 パロンブ、ペロンボ、ポロロッカ…、これは藁夫の謎かけではないか。しかし、この瞳はポロロッカに飲み込まれたシモーヌのもの、この2つをつなぐものは何か。ポロロッカに飲み込まれたのはシモーヌだけではなく、パロンブもだったのか?そして、二人は一つになって、鵯となって、今ここに。。。
 気が付くと、地面が目の前に迫っていた。しかし、地面に叩きつけられた筈の身体に衝撃は全く感じられず、静かに見つめていた鵯の目に、俺はその瞬間すい込まれていた。
 身体が雑巾のようによじれ、逆立った髪の毛は二十年モノのレゲエのおっさんのように縒れている。俺はクルクルと回転しながら地獄へ落下するかのように、その目に吸い込まれて行く。
 ウワ〜っ!
 暗転。
 頭の芯がズキズキと痛む。
 くそ、ここは何処だ。
 気を取り直して目を開けてみる。目の前で、方位磁石が気の狂ったようにグルグルと回り続けている。俺は、空豆を齧ってみる。青臭い匂いが、俺の記憶に何かを囁く。


 
☆第一章 第二節 「湖 畔」

 緑色の湖面から吹き上がってくる風が頬に心地良い。あの懐しい湖だ。
 白いのどをぐっと反らしシモーヌは麦藁色のワインを飲み干した。
「もぎたての空豆には断然ペコリーノ・ロマーノ!これ以上相性のいいチーズがあったら教えてほしいものだわ」
などと言いながら俺の皿から大事に残してあった空豆をつまむ。
 この丘でのピクニックもこれが最後だ。そろそろ出かけようと立ち上がったその時
「あれを見て!」
と叫ぶ、シモーヌの白い指先につままれた空豆。
 俺とシモーヌは、空豆がいう、緑色の湖面をじっと見据える。湖面が心なしか盛り上がりはじめたのかもしれない。
 二人が気をとられたそのすきに、空豆はシモーヌの指先からするりと抜け出し、丘を懸命に駆け降りる。
「いけないっ。ポロロッの力が急に大きく膨らみだしてる。こんな所にいちゃ、マメっ!…だけどどうして。まさか。湖にピルルッの力が働いてる?ピルルッが近づいてるなんて、聞いてないぞ…」…ドンっ。
 足をもつらせた空豆は、黒い大きな影にぶつかる。その影を見上げる空豆。
asb001 「り、り、略夫!」
「けっ」
 略夫は、空豆をむんずと掴み、放り投げる。
 ヒューン。
 その空に描く弧を、さっと伸びてきた鳥の脚が狐に誤変換する。鳥の脚の趣味は誤変換だ。こいつはまたそのうち登場することもあるだろう。
 それより問題は空豆だ。空に狐を描いて飛ぶのは、弧を描いて飛ぶのの百倍くらい大変で、そのため防御力が百分の一に落ちた空豆は、たちまちピルルッの力に正確な位置を捉えられ、ポロロッの力うどんを投げつけられた。
「うわーーーっ、餅だーーーーー」
呑み込まれたら力持ちになってしまうま、
「うわーーっ、ナルトだーー」
力持ちになってしまうま、
「ナルト、そうだ鳴門だ」
 空豆はナルトに合わせてうずしお回転を始めた、世界の潮力の総和が回転運動で倍、さらにテコの原理で四倍、いんにゃ、ボイル・シャルルの法則で十六倍となった力うどんは空豆を海豆と変身させ、高さ二万メートルのポロロッカとなり襲いかかった。
 俺は逃げる、逃げる、逃げる。
 ポロロッカは追う、追う、追う。
 ポロロッカの向うに力うどんが麺を組んでふてぶてしく笑っている。頭上にはゆらゆらと回るナルト。食べたいほど憎い麺構えだ。俺は山へとかけ昇る。ポロロッカは高さをまして追いかける。
 ふと俺は気がついた。時間の感覚というやつが、どうも俺にはないらしいぞ。こうやってポロロッカに追われて逃げてる今の俺は三年前の俺か。
 それを知る手がかりは。ポケットの中には方位磁石とくしゃくしゃのティッシュの手触り。空豆はない。
 なおも駆け上りながら俺は考え続ける。
 ここはどこだ。ポロロッカといえばアマゾンだろうが。あの力うどんのヤツはアマゾンで何をしてんだ。移民だろうか。じゃあ俺は何をやってんだ。藁夫はあれからどこにいる?
 もしかしたら・・・あの力うどんのヤツに姿を変えているのだろうか?でも、まさか。うどんに? うどんに姿を変えてしまえば、小麦粉アレルギーという体質からも逃れられるというのか。力うどんのヤツの頭上でまわるナルトは、今は亡きドリームキャストだというのか。
 まさか。
 そういえば、まさかの時に備えてアレを持っていた筈だ。ポケットをまさぐり、くしゃくしゃのティッシュを掴むと盛大に鼻をかんだ。いや、そうじゃない。改めて探り当てた方位磁石を取り出すと、針はナルトに呼応し猛烈な勢いでグルグル回転している。
 渦だ。
 ナルトと磁石が紡ぐ渦に、俺はたちまち呑まれた。その後を追うように螺旋を描き、白く輝く一条のうどん。渦は激しさを増し、俺の意識は薄れていった。


 
☆第一章 第三節 「心の旅路」

 目の前に大きな川が流れている。照りつける日差しが痛いくらいに激しい。
 固く握り締めた手を開くと磁石がふらふら揺れている。磁石の北が太陽を指している以外におかしな動きはない。振り向くとマングローブの林が広がっている。遠くには海が見える。海では何やらざわめきが、、、俺は気がついた。
 ここはシモーヌがポロロッカに飲み込まれた場所だ。
 振り返ると、うどん屋の屋台が…三年前、あの店で腹ごしらえをしてからポロロッカを見たんだ。名物のアマゾン空豆の天麩羅うどんを、シモーヌがどうしても食べたいと言ったから。
「へーい、らっしゃるる」
 屋台の親父が声をかけてきた、このハト顔は森山鳩実。こいつ鳩なのにうどん屋なのか、保健所の許可はあんのか。
「あんたに預かりものがあるる、三年前に一緒に来た女性からだよ」
そう言いながら、森山鳩実はカチンコチンになった餅を差し出した。
「こ、これは、ポロロッの餅…。」
 シモーヌはアマゾンでポロロッカに飲み込まれたあと、ポロロッの餅を懐に忍ばせて、ここの屋台に立ち寄ったというのか。
「親父、シモーヌはこの餅を何故ここへ?何か言わなかったのか?」
「いやぁそれがはっきりしないんでやすがね、風邪をひいたのか空豆でも鼻に詰まらせたのか、えらく曇った声をしておいでで。何ですか、『もしかしてクルルカリル?』とか『キロロの持ち味よね』とか口走っていたような覚えは微かに、、」
「親父、それはひょっとして『ピルルッの餅』って、、」
…その瞬間、俺の目の前から餅が消失した。慌てて振り返る。
「藁人形っ」、餅が消えて藁人形が現れたのなら、餅藁でできているとでもいうのだろうか。
 餅が無くなった今、親父にはもはや用はない。藁人形を携え、店を出ようとする俺の耳におかしな笑い声が
「ケケケケッ」
藁人形だ。
「笑っちゃうぜ。お前さ、俺のこと藁夫だと思ってるだろ」
「えっ…いや別に」
「隠さなくていいんだよ。どうせ藁人形だから藁夫だとかなんとか思ってるんだろ。ケケケケ」
ムッとしたがしかし図星であった。
「藁夫じゃないのか」
「違うよ。俺、藁人形じゃねーもん。俺はさ、わりゃ人形なんだよ」
「わりゃ?」
「藁夫のわ、略夫のりゃ、で、わりゃ人形ってわけさ。ケケケケ・・・」
asb002  何だよ、それは。ひどく感じのわるいヤツだと思いながら、俺は藁夫の手懸りを見つけようとわりゃ人形を見詰めながら藁夫の謎かけを口ずさんだ。
「バロンブ、べロンボ、ポロロッカ・・・」
最後まで聞かないうちにわりゃ人形は突然、
「悪りィーや!わりーや!」
と恐縮しながらオオオニバスのうえで気持ちよく一服していた海豆に跨って、飛んでいってしまった。
 置き去りにされた俺は、ちょっぴり淋しくなっちまった。
 センチメンタルな気分ってやつに背中を押されて密林に足を踏み入れる。ゲギョギョギョゲギョギョッ。奇声を発しつつ極彩色の鳥が頭上をかすめ、魅惑のチキルーム的雰囲気満点だ。
 いいぞ。
 しばらく歩くと、直径3メートルはある大木に行き当たった。反対側に回ってみると緑色の小さな扉があり、
「チキチキ・メンタルヘルスクリニック」
という看板がなぜか日本語で掲げてある。けっ、俺のセンチメンタルなヘルスをクリニックしてくれようというご都合主義か。あいにく俺は文無しだぜっ。思わず声に出してしまったらしい。
「イイエ、おカネは一銭もいタダきません」
といいながら、その小さな扉を開けて白衣を着た覆面の小さい人が出てきた。身長は俺の半分くらいだ。
「私はチキチキの院長デス。アナタはココで治療を受けていたのデス。」
おいおい、ここって俺はまだ入ってない。
「カコを見つめなおすコトでアナタは癒されたのデス。」
ちょっと待った!するとジャングルが治療室だったてのか?
「ソノトヲリ。」
良く見ると扉には
「出口」
と書いてある。小人に促されるままにその扉を通り抜けると、俺は前いた場所に立っていた。


 
☆第一章 第四節 「夢の濁流」

 空豆が3つ。方位磁石とくしゃくしゃのティッシュ。それがポケットの中身のすべてだった。
 小人はいない。「ゲギョギョギョゲギョギョッ」という鳴き声の方向に目をやると、そこにいるのは極彩色の鳥ではなく、鵯。
「藁夫に会いたい」
俺はそう思った
 あの時の少し乾いた秋風のにおいをともなって、脳裏に藁夫とすごした情景がリアルに甦る。
 そうだった。
 この鳥だ。
 俺は、グンネラの大きな葉の向こう側に見え隠れしている鵯にそォーっと手を伸ばしていた。
 おやぁ。こいつ、ヒヨヒヨとひよどり声を出してはいるが、手触りが板っぽいぞ。おまえ本当はイタドリだろう。人をバカにすると食べちゃうぞ。
「血ガウンだな」
ひさびさに鳥の脚が趣味の誤変換をしたが、俺にはわかった。
「まったく違いますぜダンナ様。わたしゃ浮き世の渡り鳥」
そう言うなり、鳥はバルサ作りの正体を見せてバサバサと飛び去った。
 後には何かが濁っている。
 熱帯特有の湿った空気でブーゲンビリアが大きく育って、その花粉が鳥のはばたきで巻き上げられたのだろうか。あたりが黄色がかって見える。俺は、その黄色がかった空気の方へ、ゆっくりと歩み寄る。
 ふいに、背筋がぞくぞくっとし、大きなくしゃみとともに、その黄色がかった空気を大きく吸い込んだ。
 すると、足元がふらつき、目の前がぼやけ、だんだんと俺の意識が遠のいていく。まるで、生贄にされる獲物のようだ。このまま寝れば幸せな余生が待っている、という囁きが聞こえた気がした。何かが周りにいる気配がする。しかし花粉で呆けた俺の頭ではよくわからない。気を失う前にようやく判別できたものは石像の群れだった。
asb003  石の肌に彫りつけられた荒々しい無表情は苔むしている。無数のもっさい石顔が苔むして俺を見ている。
 う、うーん、これは。これは、夢か? 夢ならいっそ、話が早い。
 先頭の、石の癖して草履のような顔をした石像に、俺は問いかける。
「お前らは、何だ?」
「ワシが何者か?そんなもの見りゃわか…(略)。貴様に説明す…(略)」
なんなんだコイツ。はっきりしろよ。
「ここは何処だ?」
「場所か?そりゃあ、こ…(略)。そらま…(略)」
空豆って言ったかも?
「空豆の事を知りたい」
「知りたい?貴様にゃ十年早いっちゅ…(略)」
ううむ。そうだ駄目モトで一応聞いておこう。
「藁夫は何処にいる?」
「藁夫?そんなヤツは知らんが…ワシならここじゃ!!!」
石顔群の中ほどにピシと亀裂が走った次の瞬間、ガラガラと崩壊する石また石。もうもうたるホコリの中にうっすらと浮かぶ黒い姿が、足元の石顔をけとばした。
「けっ」
「り、り、略夫!」。(略)だから略夫の登場とは、夢の中とはいえ余りにベタな展開に驚く俺。
「けっ、、略夫で悪かったな、オレって存在感薄いからな、ここで一発ガツンとーーー」、略夫が石頭をむんずと掴み放り投げると、一直線に俺の頭へ突き刺さった。
 俺の頭が割れポロロッカのごとく、うどんが吹き出す。それを一気に飲み込む略夫。そんなに腹が減っていたのか。痛さも忘れて、俺も飲み込む。
 最後に残った一本のわらしべ。
 そのわらしべを元手に俺は長者になった。うどんを食わせてやって以来子分になった略夫(胴体)は今や我が屋敷の執事だ。よし俺はこの夢に永住するぞ。と悦に入っていると
「がおーん」
怪異な奴が現れた。
「く・喰ってやるぅ・ぅ・ぅ」
「なんだテメーは」
「ど・・胴体夫」
「どうたいおー?」
そうか、(略)で略夫、(胴体)で胴体夫か。カッコで囲めば何でも出てくるのかこの夢は。つまり
「森鳩はパロンブ、山鳩はペロンボと鳴く。なぜだかわかるかい(藁)」
だから藁夫なのか。
「よし、こうなればなんでもカッコで囲んでやる」
俺は決意した。


 
☆第一章 第五節 「迷走航路」

「ぶおーっ、ぶおーっ、ぶおーっ」
 三貿が鳴って、俺は目を覚ました。
 暑い。
「んもう本当に暑いよな、雛祭りだっていうのにさ」
 そういって藁夫が藁帽子を放り投げた。藁帽子はデッキの上をコロコロと転がり、六分儀の下でうたた寝をしていたシモーヌの素足にからまった。
「んもー、うっとうしいわね」
 すでに2週間となる船旅にもかかわらずシモーヌの肌はあくまで白く、その瞳は緑がかった灰色。
 藁夫の叔父がブラジル行き豪華客船の旅のチケットを送ってよこしたのは2ヶ月前だったか。カレ氏は客船運営会社の大株主様だかであらせられて、ときに空室が出ると招待枠が回ってくることがあるという。俺たち4人が年がら年中ヒマをこねて餅を搗いてるようなボヘミアンであることはお見通しで、勿論俺たちも速攻、話にのり船にのった太平洋の空の下である。
 太陽が眩しい。暑い。
「あら、モリヤマさ〜んっ」
 シモーヌが隣室の窓から顔を出す。
 と、突然の衝撃が船を揺らす。
「氷山にぶつかりました」、
「ご安心下さい、タイタニックは沈みません」
 船員の声が交錯する。
 ブラジル行きで氷山?タイタニック?
「時間と空間が交錯していますナ」
 傍らの白衣覆面の小さい人がつぶやく、
「(助かる)には(カッコ)です(ヨ)」、((カッコ)…)、((何か)の)(記憶)が(蘇る)、((世の中)(に)(カッコ)(が)(((溢))((れ))((だ))((す)()()()))。
 何の記憶だって?氷山の衝撃で窓枠にぶつけた頭が激しく痛む。何がタイタニックだ。これじゃまるで、イタイタニック号じゃないか。意識の遠くで、チキチキヘルスクリニックな院長の話し続ける声が・・・
asb004 「(メンタル)デス。」
「!」
「(この)((氷山))(は)((ポロロッカ))(の)((かたまり))(で)(す)。」
 つまりえーと、なんだその、「メンタル夫」と「この夫」と「(氷山)夫」と「は夫」と「(ポロロッカ)夫」と「の夫」と「(かたまり)夫」と「で夫」と「す夫」が現れた。
 で合ってる?
 どーせなんか違うんだろーな。わけわかんねー。
 って誰にしゃべってんだ俺。
 などと言ってる間にもタイタニック号は沈んで行く。
「おい、何とかしてくれよ」。
 大勢現れた夫軍団に俺は声をかけてみた。もはやなすすべなどないのは火を見るよりも明らかだったが。
 ため息ひとつついて、タイタニックが沈む。乗客が沈む。箪笥長持どの子が欲しいが沈む。ベネチアが沈む。貴殿の失くしたのは我が輩かとつぶやきながら金の斧が沈む。ピーターファンデンホーヘンバンドが沈む。入れ歯洗浄剤ポリグリップが沈む。夫軍団の面々は
「祭だマツリだ」
「逝ってよし」
 などと口々に騒ぎながらシュワシュワと泡立つ海面に沈む。それらを飲み込む海が沈む。それらを見つめる空が沈む。すべてのものが沈む。すべてのひとが沈む。すべてのことが沈む。すべてのときが沈む。すべての記憶が沈む。すべての夢が沈む。すべてのマリカが沈む。
 そして、最後にディカプリオが沈んだ。
 ようやく、すべての謎の旅が終わろうとしている。
 俺は、このまま逝っていいのだろうか。
「逝ってよし(藁」
 という声が、沈もうとしている俺の耳に聞こえる。この声は、どこかで聞いたことがある。そうだ、藁夫の声ではないか。藁夫の藁い声、これは鳥もなおさず鳥ちがえようもなく藁夫の声。
「ご、ごらぁ。ぶくぶくぶく」
 この声は鳥みだしている藁夫の叔父さん。そして
「沈みなさい。逝きなさい。逝けばブラジル。ブーラジールー」
 とシモーヌが明るい声で唱いだした。俺はあきれて合唱した。夫軍団も合唱している。
「ブーラジールー、ブーラジールー」
 すると真っ暗な空から巨大な海豆が降下して、剛毛の生えた青臭い莢の中に俺達全員が包み込まれた。


 
☆第一章 第六節 「鏡の向こうの世界」

「すべてが幻覚だって事がこれで判ったかね」
 院長の言葉に我にかえった。椅子に縛りつけられた私の頭から、腕からケーブルが伸びている。目の前のディスプレイに映し出されたシモーヌ、藁夫、 森山鳩実との日々、それはポリゴンで形作られたまやかしの映像だった。
「そんなバカな、どこからが真実なんですか?」
 それには応えない院長。
 しかし、その袖から落ちた一本の藁が俺の中の何かを刺激した。藁夫?藁笑稿嗤哂和良、つぶやいていると院長が
「そうだお前が何者なのか?ということを見つけ直すのが大切なのだよ。おまえの心の中には宇宙人が笑々と潜んでいる。いや、決して居酒屋で宴会をしているわけではないぞ。」
 俺は耳を疑った。
 俺の心の中に宇宙人がいるというのなら、この旅は豆乳のミルキーウェイをのし泳ぎで渡る河童の川流れのようなものではないか。
 瞬間、はるかに滔々と流れわたる白い大河を埋め尽くすカッパの大群のヴィジョンが俺の脳天を突き抜けた。
 そ、そ、そうか、わかったぞ。このカッパたちこそが宇宙人なのだっっ!
 しかし真理の天啓とは裏腹に、俺の口は
「突然そんなこと言われたって信じられるかいっ」
 と悪態をついていた。
「本当だというならそいつらと話がしてみたいっ!」
「よろしい。ご招待しましょう。あなたが縛られているその椅子は聖主人のための機械。ゆっくりと目を閉じて。」
 俺は小さな人に言われるまま目を閉じた。
 ささやくような雨音が聞こえる。いや、違う。それは大河を埋め尽くす宇宙人の呟きだった。
asb005 「ポロロッ。カルルッ。クルルッカリルッ。ムピルルッ。シュルルッカプリルッ。ディカプリルッ」
 宇宙人の言葉は続く。
「ブラジルッ。ヌードルッ。ハトポッポッポッポッ。ポロポロッ。パロン。パロンペロンポロン。ポロンブッ。ブツッ」
 突然、心の中の大河が俺の目を開かせた。
 なんだこれは。
 まばゆいほどの青い光だ。俺はいったいどこにいるんだ。光の洪水のなかに、見覚えのあるものが飛んでいる。
 あれは鳥だ。鳩だ。森鳩と山鳩だ。二重螺旋を描きながら俺をめがけて飛んでくる。
 その二重螺旋はみるみるうちにデオキシリボ核酸となり、神々しいまでの青い光に包まれていき、俺の心の中の大河は、なにかが見えるわけでもないのに、確かに森山鳩実の存在を感じている。
「パロンブ!」
 突然の金切り声と共に、闇を切り裂く続けざまの閃光。
「ペロンボ!」
 激しい羽撃きの音が不意に途切れ、やがて石のような静寂の中、俺の心は微かな気配を感じとった。
 …水だ。黒い水がどろり、どろりと渦を巻き始める。
 いけない。止めなくては。身悶えする俺の頭上で次の瞬間、勝ち誇った声が叫んだ。
「ポロ六課!」
 …そうか、鳥には鳥の脚がある。
「ポロ六花!」
 水の動きが止まった。いいぞ鳥の脚。
「デオキシリボ角さんや」
 いいぞご隠居。
 ここを先途とデオキシリボ角さん、一歩前へ、
「このマンドコラが目に入らぬかっ」
 と懐から取り出したイン・ロウを突きだし見得を切る。
「カッカッカッ」
 藁うご隠居。そのマンドコラ絵図に、森と山の二羽の凶鳥の目は釘付けになっている。

森鳩空豆藁夫
河童(俺)隠居
略夫海豆山鳩

。・・・そして院長がボタンを押す。
 すべてのテーグルタグはカッコに一括変換され、<td>隠居</td>は(隠居)に、そして隠居夫になった。新たな夫軍団は薄笑いを浮かべ、ブーラジール、ブーラジールと合唱しながら海の底へ沈む。私は相変わらず椅子に縛られ、沈み行くポリゴンの夫軍団をディスプレイで見つめていた。
「つまり、君の脳の問題はこういう事だ、そして世界が滅んだ原因も同じだ、、、」。院長が覆面を外した。


 
☆第一章 第七節 「揺らめく風景」

 空豆が3つ。方位磁石とくしゃくしゃのティッシュ。それがポケットの中身のすべてだったと思ったら、俺の指先に何かが触れた。
 俺はそれを注意深く握り、そっと取り出す。
 掌には緑がかった灰色の瞳をした院長がいた。
 いや、鵯がいた。
「もぎたての空豆には断然ペコリーノ・ロマーノ!これ以上相性のいいチーズがあったら教えてほしいものだわ」
 鵯が、少しフランス語訛りの聞き覚えのある声で喋る。
「うふふっ、どうしたの?そんなに目を丸くして。まあ、驚くのも無理ないわね。私にチーズの素養があるなんてあなたは知らないわよね。人はパンのみにて生きるものにあらずという諺をご存知だわよね。そうよ、人にはチーズも必要なの!世の中のどんな食べ物にも必ずそれにあうチーズがあるのよ。いい?もし合うチーズがないなんてことがあったとしたら、それはあなたが知らないだけなの。力うどんに合うチーズだって・・」。
 鵯の足が誤変換を始める、
「力うどんに合うチータだって・・」。
 ねじり鉢巻きのチータがヨイショヨイショと餅をつき、三歩進んで二歩さがる。
 祭りだ祭りだワッショイワッショイ、神輿をかつぐは夫軍団、二番神輿は新・夫軍団。その後に河童たちのソーラン節がミルキーウェイを彩り、後に続くタイタニック山車の先端ではディカプリ夫が一人前のうどん職人となった祝いにシャンパンを開け、その後には、山車の上で相変わらず覆面をかぶっているTMHC院長が、立ち上がって俺の掌の上のCMHC院長に手を振って挨拶している。
「カーニヴァルだ。カーニヴァルだ」
 と叫んでいるのはブラジル国旗の法被を着たわりゃ人形で、巨大な海豆のハリボテに乗っている。それに続くは胴体夫と力うどんだが、頭上のナルトから何やら邪悪な力を発している。
asb006  その邪悪な力は、カーニバルの熱狂の渦をナルトの渦に変えようとしている。
 まず力うどんのそばにいた胴体夫が、その邪悪な力に飲み込まれてしまった。そして力うどんのトッピングとなってしまい、ナルトの隣に収まってしまった。
 徐々にその力が広がってゆく。
 そして、海豆のハリボテに乗ったわりゃ人形が海豆もろとも豆モヤシに変身、やはり力うどんの具となる。山鳩夫と森鳩夫も巻き込まれ、力うどんは鳩南蛮力うどんへとバージョンアップ。南蛮にはネギが必要だということで藁夫夫がネギに(ちなみに薬味の方のネギになったのは略夫夫)。河童夫の頭の皿はそのまま皿になり、河童のカッパ巻がその上に並ぶ。
「すいません醤油ください」
「はーい」
 隠居夫が醤油になって、鳩南蛮力うどんセット(カッパ巻付き)の完成で〜す。それでは試食にまいりましょう。
「豪華ですねぇ」
「あ、鳩のダシはよく出てますよ」
「喉越しがたまりません」
「そろそろ採点の方をお願い…アレ、今日のゲストはどちら、、」
「あんぐわ〜」
 見えなかったのは道理かもしれない。お招きのオオオニバスは彼らを丸呑みにしてしまった。
「オオオニバスさん、この話はいったいどうなってしまうんで?」
「オムニバスだよ〜」
 ああ!プルーストよ、お前もか。失われた時は今ごろ、紅茶の大海に溺れるマドレーヌ、天つゆの淵に沈む大根おろしと手に手を取って逃避行の真っ最中だ。
 そんなこととは露知らず、オオオニバスに呑まれた鳩南蛮力うどんセットその他いろいろ御一行様はウツらウツらとまどろみながら、次のバスがもうもうと土ぼこりを蹴立てて田舎道をやって来るのを待っていた。
 ケシつぶほどだったバスは思いのほか速いスピードで、ぐんぐん近づいてくる。ぐんぐん近づいて、どんどん大きくなってくる筈のバスは、遠近法を全く無視して、小さいままやって来た。俺はCMHC院長を、そのケシつぶほどのバスに乗せてやった。
「 じゃあ。」
 その様子を見ていた森鳩と山鳩は知っていた。
「ここからなら何処にでも行ける。」
 森鳩は再び、空の彼方へ飛び去った。


 
☆第一章 第八節 「邂 逅」

 あれから幾日が過ぎただろうか。未だに、頭の中で現実と幻覚と夢の区別が付かない。
 ただ、いつも空豆だけは俺とともにいてくれた気がする。実は空豆がシモーヌの生まれ変わりなのでは、そんな考えも頭をよぎる。
 い、りゃん、さん…ポケットの空豆を机に並べ、俺は数えた。
 い、りゃん、さん、す…そもそもポケットに空豆が入ってるってのは何かおかしくないか…い、りゃん、さん、す、う…ティッシュはわかる。磁石もわからないではない。しかし空豆とは?…い、りゃん、さん、す、う、りう…しかも、数え直すたびに増えているような気がするのだが…い、りゃん、さん、す、う、りう、ち…俺の気のせいだろうか。いや、やっぱりヘンだぞ。
 い、りゃん、さん、す、う、りう、ち、ぱ…と数えた瞬間、8番目の空豆が「パはパロンブのパ!」と叫んで飛び上がった。
 トコトコと机の端まで駆けていった空豆は、開いた窓からつるりと身を躍らせるから俺もあわててその後を追いかける。
 8番目の空豆が描くかぼそい放物線に、青いシャツの裾をはためかせた俺の弾道が食らいつく。追いつく頃には地面と衝突かなと思ったその時、俺の弾道はライフルをきかせてククイーンと延び、みごとパロンブ空豆にドッキングした。
 じわじわと俺の頭が空豆に食い込む。ああ、青臭や、青草や。
 ところが背後になにやら大がかりな雰囲気を感じ、エクソシスト的に振り返って見れば、なんとまあ驚いたことに空豆の数列が数珠繋ぎになって、後から後から到着してくる。それを追って、無限とも思われる「俺」の弾道が食らいついてくる。ほとんどビデオアートのフラクタル画像のように、部分は全体に、全体は部分に、無限の相似形が広がってゆくではないか。
asb007  巨大化したフラクタルは巨大な曼荼羅となり、世界全体に広がっていく。
「これが宇宙の成り立ちだというのか!」
 無限の相似形となった俺が叫ぶ。
 俺の叫び声は、散在する光の粒子を黄玉に変えた。そこに時々、空豆が姿を現す。現れては、消え、また別の場所に現れてはふっと消える。俺は空豆の気配を必死に探した。
 その時、巨大な曼荼羅の中心にある照妖鏡が森山鳩実の姿を映し出していた。
 ジャキッ、背後で音がする。
「おい、そこの糞ったれファッキンビーン! 俺様が出て来いと言ったら、すぐ従うんだな。従わない奴はみんな糞餅だぜ」
「お、叔父さんっ!」
 驚いてる暇もない。
 照妖鏡に映る中、藁夫の叔父の弾道は森山鳩実めがけ軌線を伸ばす。
 いや違う、目指しているのは森山鳩実ではなく、その後ろにいる影だ。俺にもやっと見えてきた、何やら剛毛の生えた青臭い莢の邪悪で巨大な影だ。
 ぶよんと動いたかと思うともういちど誘うようにぶよんと動いた。藁夫の叔父の弾道は森山鳩実をかすめて莢へと向かう。莢の皮が割れたかと思うと中から子葉が飛び出し、照妖鏡を覆いつくす。
 弾道は葉の中に飛び込む。だが手ごたえがない。葉の下から蔓が伸びはじめ、みるみるうちに巨大な曼荼羅をも覆いつくしてしまう。曼荼羅の前にできる巨大なつぼみ、森山鳩実の姿はもはや見えない。
 俺と叔父に向かって蔓が伸びて、体中に巻き付いた。蔓は俺の体を空中に持ち上げると、繭のように覆いつくす。つぼみの前に捧げ物のように俺の体は浮いた。
 なす術も無く時間が経った。
 太陽が落ち、夜の闇が訪れた。また太陽が登った。そして180万回の昼と夜が繰り返されのを俺は見つめていた。5000年の時がたち、つぼみが開いた、俺はシモーヌに会える時が来た事がわかった。
 つぼみが開くと、そこには一羽の鵯がいた。
 そして、輝く太陽に向かってはばたきながら、
「もぎたての空豆には断然ペコリーノ・ロマーノ!これ以上相性のいいチーズがあったら教えてほしいものだわ」
 と鳴く。
 そして、力強く羽ばたくと、その姿は太陽に吸い込まれ、次の瞬間憂いのある灰色の瞳の、忘れもしないシルエットの女性が、目の前にいた。
「シモーヌ」、思わず叫ばずにはいられなかった。


 
☆第一章 第九節 「知るも知らぬも有耶無耶の関」

「シモーヌ!」
「もぎたての空豆には断然ペコリーノ・ロマーノ!これ以上相性のいいチーズがあったら教えてほしいものだわ」
「シモーヌ、会いたかった」
「もぎたての空豆には断然ペコリーノ・ロマーノ!これ以上相性のいいチーズがあったら教えてほしいものだわ」
「シモーヌ…?」
 どこからかジジジ…という微かな音がする。
 灰色の瞳が不意にくるりと裏返り、開いた2つの空洞から2羽の鳩が顔を出した。
「ポッポ、ポッポ、ポッポ!」
「3時、3時、3時!」
 交互にパタパタと羽ばたきながら2羽の鳩が時を告げる。
 そうだったのか、シモーヌ…。
 俺は湯を沸かしてとびきり丁寧に2人分の茶を淹れ、5000年もののポーレー茶の深く澄んだ琥珀色と日向くさい香りに、ほおーっと深い溜息をついた。小首をかしげた森鳩と山鳩がこちらを見ている。俺は覚悟を決め、2羽の鳩に呼びかけた。
「さあ、行こうか。実のところへ」
 やや緊張した面持ちで森鳩は答えた。
「ここからは遠すぎるとお思いになりませんか。」
 透かさず山鳩が口を挟む。
「お前が探せ。実を探せ。」
 その相変わらずの命令口調に、あの頃を懐かしむ。俺はもう一度確かめるように2羽に告げた。
「行こう。実のところへ」
 山鳩は、あの日のように俺の頭にとまった。森鳩は、俺の道標となるべく、俺の前を歩く、歩く、歩く。
「遺構美濃る能登頃へ」
 突然、歩いていた森鳩の脚が趣味の誤変換を始める。
「美濃?能登?」
 俺は小さな影に導かれるように歩を進める。
 冬の美濃禅定道は人を拒絶するかのように厳しい白衣を纏い、俺の草鞋をせせら笑う。
asb008  ピルルっ、ジールーっ。
 深い沢に暗黒の峰から吹き下ろし渦を巻く風の音は、古代の修験者が白山に遭遇した河童の宇宙人の声だろう。
「ああ遥か能登は藁夫と過した秋のように遠いのかっ」
 絶望感が俺の頬をつたい落ちる。そのまましゃがみこんでしまいそうになった俺の前に白い羽が舞った。
「ら、雷鳥の長者!、わらしべをくわえている!」。
 でも単にくわえていただけなので一生、ふつーの雷鳥のままでした。とっぴんぱらりのぷー。
 そんな事を考えながら三日三晩歩き続け、辿り着いたのはチキチキ山クリニック寺の山門。
 広大な本堂の中では無数の僧が座禅中。よく見れば略夫、わりゃ人形、石像、新旧夫軍団、河童などなど、懐かしい顔ばかり。読経が
「パロンブ、ペロンボ、ポロロッカ…」
 と響く。法力に満ちた僧たちは1メートルほど空中に浮かび上がり、それぞれの頭上には空豆が回っていた。
「パロンブ、ペロンボ、ポロロッカ…」
 の経文を唱えながら、空中浮遊した僧の間をCMHC院長とTMHC院長が五体投地で進んでゆく。その行く先には、白衣覆面の小さい人が、一段高い位置で袈裟を着て読経をしている。その奥には巨大な曼荼羅が掛けられていた。思わずその曼荼羅に吸い込まれるように、五体投地をしている自分がいた。空豆の回る中、空薬莢の回る中、くるくる回る糸車の中、あんなにあんなに早く、粉ひきのオジサンいつまで寝ているの。
「しまった」
 ガクン、と驚愕夢があって、俺は目覚めた。
「ずいぶん長く眠っていたのね」
 と、シモーヌが笑っている。
「ペコリーノ・ロマーノも、麦藁色のワインも、もう売り切れちゃったわよ」
 湖面から吹き上げる風も冷たい。
「なあ」
 と、俺は思わず言った。
「藁夫はどこにいるんだろう」
 すると突撃ラッパが湖の向うから響いてきた。シモーヌが答えて
「ああ、あの音のするところに藁夫はいるわ。藁夫は常に現実に挑戦することで自分を確かめているの。あなたの夢の中でもいろんな役割をしていたわね。」
「俺の夢の中で?しかし何故突撃ラッパ?」
「それはあなたが自分の頭の中で《挑戦》=《突撃》と解釈しているからよ、あなたはここで夢から醒めたつもりだったわね、でもここが現実だとどうし」
 バーン!
 皆まで聞かず俺はシモーヌに体当たりした。だって突撃が挑戦だから。
 バーン!
 安物の鳩時計はバラバラに砕け、内蔵をあたりにぶちまけた。なるほどこれがシモーヌの内蔵か。時計の部品の周囲を埋め尽くすのはケシ粒フィギュアの大群だ。鳩。鵯。院長。豆。河童…なんだ藁夫もここにいたのか。おい何か言えよ。誰だよ笑ってるのは。あ俺か。…骨?なんで骨なんか…真っ赤だぞこの骨、おい、



☆登場人物
俺:冬の美濃から白山越えで能登を目指しチキチキ山クリニック寺に着くが夢だった
俺の弾道:8番目の空豆が窓から脱走したので、その放物線に食らいつく。
藁夫:藁夫夫となり鳩南蛮力うどんセットのネギ(最初からはいってる方)に変身。
森山鳩実:巨大な曼荼羅の中心にある照妖鏡に映っていた。今は不明。
森鳩:俺の道標となるべく、俺の前を歩く。
山鳩:俺の頭にとまった。
シモーヌ:鵯の姿から元の鳩時計に戻る。瞳の空洞から2羽の鳩。いまは俺の隣でバラバラ。
空豆:数えるたびに1つずつ増える。現れては消える。
8番目の空豆:「パはパロンブのパ!」と叫んで窓から飛び出していった。
海豆:もと空豆。わりゃ人形を乗せて飛ぶ。巨大化して俺達全員を包み込んだ。
略夫:我が家の執事→夢でクリニック寺の禅僧。
鳥の脚:森山鳩実の足。趣味は誤変換。鵯の足でも誤変換? 森鳩の脚でも誤変換。
力うどん:鳩南蛮力うどんセット(カッパ巻付き)にバージョンアップ。
わりゃ人形:豆もやしとなって鳩南蛮力うどんの具に。夢でクリニック寺の禅僧。
白衣覆面の小さい人:俺を心の中に招待した。夢で読経する。
CMHC院長:鵯の姿でチーズの薀蓄をたれたる、夢では五体投地で進んだり。
TMHC院長:山車の上、覆面でCMHC院長に挨拶した。夢では五体投地で進む。
石像:苔むした石の像。夢の中(?)で俺を取り囲むが崩壊。夢でクリニック寺の禅僧。
胴体夫:山車行列では海豆の後方にいたが、力うどんのトッピングに。夢で禅僧?。
藁夫の叔父:巨大な曼荼羅の中心にある照妖鏡を見る俺の背後に現れる。夢禅僧?。
藁夫の叔父の弾道:森山鳩実の後ろの剛毛の生えた青臭い莢の影めがけて飛んで行方不明。
夫軍団:「メンタル夫」「この夫」「(氷山)夫」「は夫」「(ポロロッカ)夫」 「の夫」「(かたまり)夫」「で夫」「す夫」、沈んでいく→海豆の中→神輿をかつぐ。夢禅僧?。
新・夫軍団 → すべて沈んだ、二番神輿をかつぐ。夢でクリニック寺の禅僧。
タイタニック号:沈んでいく。
ディカプリ夫:タイタニック山車の先頭。一人前のうどん職人となった。夢禅僧?。
河童の宇宙人:ソーラン節を踊り、鳩南蛮力うどんセットのカッパ巻に変身。夢禅僧。
ご隠居:カッカッカッと藁う。ご隠居夫になり沈む。カッパ巻の醤油に変身。夢禅僧?。
デオキシリボ角さん:ご隠居のお供。マンドコラの入ったイン・ロウを突きだす。夢禅僧?。
チータ:チーズから誤変換(?)、餅をつく。夢禅僧?。
オオオニバス:鳩南蛮力うどんセット(カッパ巻付き)・うどん職人一行を丸呑み
マドレーヌ:紅茶の大海に溺れている。
大根おろし:天つゆの淵に沈んでいる。
失われた時:そんなマドレーヌと大根おろしと手に手を取って逃避行。

→ メールでリレー小説2004 本文第二章
・第一章解析:森山鳩実は誰だ?
・第一章解析:藁夫と略夫とわりゃ人形



★みんなの自己紹介 (名前をクリックすると各人のホームページに行けます)
浩某 谷山浩子です。泳げません。自転車に乗れません。ボウリングのタマが持てません。
kneo 吉川邦夫、別名「ふねを」。本業はリレー小説家、いやさ翻訳家です。
AQ  石井AQです。2004私的感銘リスト:「屏風」「煙か土か食い物」「馮」「フリッツ」「Ohara's」「J.Truchot」、
へべ  石井へべです。ガーデニングの野望を抱いて4年目にしてまだ雑草むしってますが、何か?
Zom  観てね(^^) 東京国際映画祭で観た「ビヨンド・サイレンス」最高に面白かった。グランプリが取れて嬉しい(^^)。今年のベストワンかも。
koda こだです。ぴよと名付けたと暮らしています。「コンピュータの名著・古典100冊」で1冊分の書評を書きました。良い本です。みなさん読みましょう。ヽ(^o^)ノ。「蘇るPC-9801伝説」にも少し関わりました。
kuro  謹厳実直なサラリーマンのくろせです。ミュージカルと介護で人生手一杯です。マイブームはボール投げ、人生はまだ投げてないようです。
おさる「k.ishi」のペンネームで作ったMacLHAこと「ぞうさん」はいまだに多くのMacユーザーに愛されている。
リカお芝居が大好きです。映画なら、パラジャーノフとタルコフスキーが好きです。


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